同志社大学心理学研究室
同志社大学文化学会共催          特別公開講演
(臨床発達心理士研修会) 9月24日 15:40〜17:10 至誠館32番教室(S32)
                 
医学における人間的ファクター
講演者: 中井吉英(関西医科大学心療内科学講座教授)
司会者: 橋本宰(同志社大学)

     
     
     
     

講演要旨
  自然科学としての近代西洋医学の医学・医療モデルは、ニュートンの力学的自然科学を基盤にして成
り立つbiomedical model(生物医学的)である。「科学的である」であるためには客観性、普遍性、再現性が求められる。そのためには、病気の発症や再現の原因となる多様な要因の関係性、個別性、心理、社会、人間性といった曖昧な要素を無視するか切り捨てなければならない。
  Engel(1977)は多元系の作業仮説としてbiopsychosocial modelを提唱しbiomedical modelの限界と問題点を指摘した。彼は糖尿病と精神分裂病という代表的な身体疾患と精神疾患を例にあげ、biomedical modelに基づく要素還元論的アプローチでは両疾患の病態の理解も対処も不能であることを示した。システムズアプローチの考え方を基盤にした全体としてのシステムや各因子間の相互作用や関係性を重視した概念である。しかし、心身医学はbiomedical modelという自然科学的な方法論の有効なモデルに、心理因子と社会因子を加えたものに過ぎなくなった。従来の心身医学の過ちは還元論を乗り越えようとしたにもかかわらず還元論を受け入れてしまった。心は要素還元論の最先端である分子生物学による分子モデルにと置き換わりつつある。Engelの言いたかったのは心身相関という因果論的思考ではなく、全体性との相関、関係性の認識である。
  医学はますます細分化され要素還元的な方向に突き進んでいる。医学と医療の矛盾は不幸この上ない。医療現場ではより人間的要因が必要になる。「人間的ファクター」は全人的医療を行う上で最も重要な要因である。医学と医療における「人間的ファクター」について具体的に述べてみたい。
日本性格心理学会経常的研究交流委員会・
日本発達心理学会研究交流委員会共同企画 小講演
(臨床発達心理士研修会) 9月25日 15:00〜16:30 至誠館32番教室(S32)
                 
発達支援における「個性」の回復について
―現場的パーソナリティ心理学への提言―
講演者: 川野健治(国立精神・神経センター精神保健研究所室長)
司会者: 岡本依子(湘北短期大学)
     
  子育て支援や高齢者介護など、発達心理学がその専門性を生かして生活者支援に貢献する機会が多くなった。しかし、「支援」という枠組みは、ともすると当事者間を「支援を与える側」と受ける側」「専門家と非専門家」というカテゴリ化に導く可能性がある。また、ニーズを明らかにし適切な処遇を専門性のもとに提供するという支援の手順の中には、一人の生活者としての独自な全体性、すなわち「個性」にかわって問題、障害、疾患が注目される、いわば「医療モデル」のまなざしが優先的に成立する可能性もある。このような他者への視点の固定化(とその回復)は、例えば精神障害者への地域生活支援の歴史の中にみることができる。つまり、有効な支援、地域生活、アイデンティティの成立などいくつかの観点から、発達支援におけるこのような他者への視点の固定化の危険性を指摘することができる。
   本講演では、報告者の関与する発達支援、また自殺遺族や障害者の支援の現場において見失われがちになる、被支援者の「個性」について、いくつかのデータを交えて提示したい。そして、状況や関係性のなかでの他者を捉えることに多くの知見をもち、また安定して他者を捉えるツール=テストを開発してきたパーソナリティ心理学が、その回復に貢献する可能性について検討する。
要旨:
シンポジウム1 9月24日 14:00〜15:30 至誠館32番教室(S32)
                 
学部での性格心理学教育の実態と今後の可能性について
企画者: 日本性格心理学会経常的研究交流委員会
酒井久実代(北海道教育大学保健管理センター)
友田貴子(立教大学)
鈴木麻里子(日本能率協会マネジメントセンター)
大久保智生(早稲田大学人間科学研究科)
司会者: 酒井久実代(北海道教育大学保健管理センター)
話題提供者: 大久保智生(早稲田大学人間科学研究科) 「性格心理学教育の実態と
今後のあり方」
渡邊芳之(帯広畜産大学畜産学部) 「教養教育としての性格
心理学教育」
高橋潔(南山大学総合政策学部) 「経営人事アセスメントのための
性格心理学とその教育」
桑原知子(京都大学教育学研究科) 「心理臨床と性格心理学」
指定討論者: 黒沢香(千葉大学文学部)
シンポジウム2 9月25日 11:00〜12:30 至誠館32番教室(S32)
                 
心理測定の現在と未来
企画者: 杉山憲司(東洋大学)
司会者: 杉山憲司(東洋大学)
話題提供者: 鋤柄増根(名古屋市立大学人文社会学部) 「量的測定の現在と未来
―増殖する尺度―」
川野健治(国立精神・神経センター 「質的研究の成果の心理測定
       精神保健研究所) への貢献」
安永幸子(学習院大学人文科学研究科) 「ファセット理論と性格研究への
適用可能性」
指定討論者: 有光興記(神戸親和女子大学)
尾見康博(山梨大学)
シンポジウム3 9月25日 13:20〜14:50 至誠館32番教室(S32)
                 
心理学から見た「心のノート」;
「心のノート」からみた心理学
企画者: サトウタツヤ(立命館大学)
司会者: サトウタツヤ(立命館大学)
話題提供者: 伊藤哲司(茨城大学) 「心のノート」が圧殺するもの
―ソフトな社会管理進行への危惧―
渡邊芳之(帯広畜産大学畜産学部) 「心のノート」を「心理学の問題」
として考える
指定討論者: 荒川歩(同志社大学文学研究科)
ワークショップ
(臨床発達心理士研修会) 9月25日 16:40〜18:10 至誠館32番教室(S32)
                 
人生の物語に寄り添う(性格)心理学
その意義・方法論・実践手法
企画者: サトウタツヤ(立命館大学)
司会者: 湧井幸子(立命館大学応用人間科学研究科)
話題提供者: 田垣正普(大阪府立大学) 「ライフストーリー研究における
話し手の経験のプロセスの区切り方」
伊藤哲司(茨城大学) 「1975年4月30日「サイゴン解放」の語られ方
その羅生門法的構成から立ちあがるリアリティー」
指定討論者: 野村信威(同志社大学文学研究科)


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