インタビュー企画2:小堀修(前半)

 第二回は,英国で研究をされている若手研究者の小堀修先生にインタビューしたいと思います。小堀先生は,現在,キングスカレッジロンドンの精神医学研究所(心理学部)に留学されています。ご自身の研究について,また,イギリスでの研究環境などについて伺えたらと思います。。

―――お久しぶりです。お元気でしたか。

小堀:最後にお会いしたのは,ちょうど1年前ですね。学会の打ち上げで,新宿の京王プラザホテルでアフタヌーンティをしましたね。正確には,アフタヌーンティをする僕にみなさんが付き合った,ですが…

―――「2006年の国際サイコセラピー会議」でしたね。Kent大学のStoeber先生とシンポジウムをやりましたね。(あのときの写真は・・・あ,これですね。)
 懐かしいですね。
 さっそくですが,小堀さんの研究についてお聞かせいただけたらと。大学院では完全主義を研究テーマとされていましたが,現在も同様に完全主義をテーマとされているのでしょうか。それとも,新たに関心を持ち始めたテーマがあるでしょうか。
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いきなり研究の話ですか?!ちょっと待ってくだ…(カンペを取り出す)。そうですね,以前は完全主義をテーマとしていました。完全主義は,トップアスリートにも,精神疾患を持つ方にも見受けられます。このため,「どのようにして完全主義はポジティブになったりネガティブになったりするのか」ということを調べていました。  現在の主なテーマは,強迫性障害です。特に,再保証を求める行動 (Reassurance Seeking) について,幅広くリサーチしています。

―――ああっ,いきなり研究の話を振ってしまいすみません…(額の汗を拭う)。普通は,「ロンドンの生活はどうですか」と切り出すところですよね…ま,始めてしまったのでこのままいきましょう(笑)。

■ 現在の研究テーマ

―――さっきのシンポジウムのテーマも完全主義だったわけですが,研究テーマを強迫性障害に変更したきっかけは何かありましたか。また,再保証を求める行動についても合わせて簡単にご説明いただけますか。

 強迫性障害 (以下OCD) の研究を始めたきっかけと,再保証を求める行動についてですね。
 まず,OCDと完全主義には密接な結びつきがあります。つまり,OCDを持つ人は,完全主義的な考え方が強い場合があります。加えて,国立武蔵病院で認知行動療法のトレーニングをしていたときに,様々なOCD患者さんに出会ったことが,OCD研究を始めたきっかけです。
 次に再保証を求める行動についてです。例えば,僕が鈴木さんに対して,学振の申請書など,ものすごく重要な書類をメールで送るとしますよね。しかしながら、鈴木さんから返事が来ない (いつも速攻で返すのに…)。ちゃんと送信されたか,僕はすごく不安になるわけです。すると,鈴木さんに「届きましたか?届いたら連絡下さい」と確認のメールを何通も出したり,「送信済みアイテム」を何度も確認したくなります。 このように誰でも不安になると,他人に,もしくは自分に対して,再保証を求めます。しかしながら,OCDを持つ方の場合,このような行動が過度になって,OCDを維持させてしまいます。
 例えば,家族に対して「家の戸締りをきちんとしたか?」「この皿はきちんと洗ったものか?」を何度も確認したり,自分自身に「鍵を回した感触が手に残っているぞ」「洗剤の量がさっきより減っているぞ」といった保証を求めたりします。 このような行動は,OCDの回復を妨げるだけでなく,家族にも大きな負担をかけることになります。さらに,セラピストも再保証を求めるターゲットとなります。気づかぬうちにセラピストが再保証を与えてしまっていたり,再保証を与えないことで治療同盟が損なわれてしまう場合もあります。

―――なるほど。多くの研究が,完全主義とOCDの関連を支持していましたね。そして,OCDの維持要因の1つに再保証を求める行動があり,それが回復や治療関係に影響を与えるということですね。
 不勉強なもので教えてもらいたいのですが,これは強迫症状の中の確認(Checkingとは異なるのでしょうか。別だとすれば、どのような違いがあるのでしょうか。


強迫症状としての確認と,再保証を求める行動の違いですね。とても鋭い質問です。というのも,この2つの概念はとても似ているからです。それでは,両者の共通点と相違点を挙げてみましょう。
 まず,どちらもその働き方(機能)が似ています。つまり,短期的には不安を下げることができますが,長期的には不安を維持してしまいます。もう少し具体的にいうと,ガスの元栓を何度も確認したり,他人に確認させることで,その場では安心します。しかし,これらの行動をやめない限り,また似たような場面で不安が高くなり,確認せざるを得なくなってしまいます。
 次に相違点です。確認は,自分自身でやる行動ですね。再保証を求める行動はその一方,他人を巻き込んだ行動です。また,自分自身に再保証を求める場合,「外から見て分かりにくい」という特徴があります。
 例えば,ガスの元栓を閉めるときに,閉めた感触が手に残るよう「強い力で元栓をつまむ」とか,閉めた後に「閉めた記憶を何度も思い出す」などは,家族やセラピストには分かりづらい。このことは,セラピーを難しくする要因にもなります。
 他にも,再保証を求める行動は,家族とのあいだ,恋人とのあいだに,緊張関係を生じさせやすくなります。

―――共通点も相違点もあるということですね。確かに,他人を巻き込むだけ,再保証を求める行動の方が、他者との関係にも大きな影響を与えやすいのですね。
 再保証を求める行動の検討が,OCDの理解・治療に役立つであろうことは想像できるのですが,小堀さんは,この再保証を求める行動についてどのような研究をされてきたのでしょうか。また,今後,どのような研究をされる予定でしょうか。


 再保証を求める行動は,20年以上前から着目されており,実践場面での認識度は高いのですが,研究らしい研究はありませんでした。ですから,症例報告を読んだり,自分自身の実践経験を振り返ることから始めました。次に,OCDを持つ方やご家族から意見を聞いたり,他のセラピストからフィードバックをもらったりしました。
 最終的には,スーパーバイザーのSalkovskis教授の意見を踏まえて,質問紙を作成しました。質問紙には,再保証を求める人のバージョンだけでなく,再保証を与える人 (例えば家族) のバージョンもあります。
 今後の構想としては,4〜5年かけて,調査,実験,面接の3つをやっていく予定です。日本語版の質問紙も作成し,日本でも研究が続けられるようにしたいと考えています。

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