インタビュー企画5:辻平治郎(後半)


■ FFPQの作成について

―――FFPQという尺度を開発されていますが,その尺度につきまして色々お聞かせ下さい。まず,この尺度を作られたきっかけというのは一体何だったのでしょうか。

 まず,今までの性格検査というものに非常に不満を持っていました。私自身投影法の検査とか,一応臨床をやるようになって多少の勉強はしましたけれども,やっぱり自分の性に合わないなという気持ちが非常に強かったです。ですから,投影法でなくてもう少し別の方法がないかと。その時に,当然質問紙法ということになっていくわけです。
 当時質問紙法としてよく使われていたのはYG性格検査なんですね。YG性格検査というのは一応12の下位尺度がありますけれども,実質的には大雑把に分ければ外向性―内向性という次元と,情緒安定性―不安定性という次元の,まあ2次元で構成されている。2次元ではその人間のパーソナリティを捉えるのは無理やとずっと思っていたわけです。ですから,私自身はFFPQをやる前はアイゼンクのEPQとかも検討してみました。ここではいわゆるサイコティシズムという次元を出しているので,それはどうかと思って,そのアイゼンクの尺度を訳して使ってみたことがあります。けれども,やっぱりあれPが非常にわかりにくいのですね。で,因子分析なんかしてもPという因子としてまとまりをもつということはやっぱり無いわけですね。それと,意外に思ったのは,EPQというのは因子分析をしてみるとライスケールがきれいに1因子として出てくるのですよね。そういう意味で,いったいライスケールというのは何なのかということにも多少の関心を持ちましたね。
 そういう状況で色々文献を見ていると,5因子の文献に行き当たったのですね。最初に見たのは誰のものか,ちょっとはっきり思い出せないですけれど。コスタとマックレーが作ったNEO-PIという尺度がありましたが,そういうのを早速取り寄せて見てみました。私が取り寄せたときはまだNEO-PI-RではなくてNEO-PIのほうでして,NEOという3因子は下位尺度にわかれているのですけれども,AとCという因子についてはまだ下位尺度まではできていない,そういう尺度でしたね。そんな尺度でしたけれども,それはなかなか面白いなということを思いました。また,第5因子がintellectでなくて,opennessなんですよね。僕はそれにも非常に興味をもちまして。Opennessというのは,それこそ学生の時から思っていたexplorationとかcuriosityとかいうような問題とある意味非常に結びつきやすいもので。そういう意味で,5因子というものに興味を持ったわけです。
 ただ,日本ではその当時はまだ誰もそんなことを研究している人がいませんでした。それやったらしょうがないから,自分で尺度を作ってみようかと思いまして。最初は形容詞――ノーマンとかゴールドバーグとかの尺度項目は全部形容詞ですし,元々はああゆうレキシカルな,語彙をみていくようなアプローチですね。ああいうところから出てきたものですから,形容詞対にするかあるいは形容詞だけにするかは別にして,そういう尺度が構成できないかと思って,検討してみたんです。けれども,それはもうひとつきれいにわかれなかったんですよね。それやったらもう仕方がないので,文章にした尺度を作ってみようかと。で,その時NEO-PIも見ましたけれども,その時はまだAとCの下位尺度ができていなかった時で,当然彼らも,AとCの下位尺度を作ろうとしているはずやと思いましたので,それやったらこっちも最初からそういう下位尺度まで分化できるような,そんな尺度をとりあえず一回考えてみようということで。
 最初私が作ったFFPQのもとになる尺度というのは,今のFFPQとあんまり大きくは変わらないですけれども,5因子×5下位尺度という,そんな感じで一応6項目入るというような,そういう尺度をとりあえず考えました。それが元々のFFPQの原型ですね。それはそんなにうまくいくとは実は思っていなかったのですけれども,因子分析をしてみると意外にきれいな結果が出てきたんですよね。それで学会発表してみたら,興味持ってくれる人が結構ありまして。それやったら,もっとちゃんと使える尺度にするような研究会をやってくれと言われまして,それで研究会をやってみましょうということで。その研究グループを作ってから,3年くらいしてですかね,大体できたのは。
 あれはやっぱり中々難しいものでしてね,やっぱり5因子に分かれなければいけないというのと,それから,5因子をどんな要素で構成するかという。どんな要素を考えるかということによって,当然その因子そのものも変わってきたりしますし。だから5因子の特徴をきちんと持っていてなおかつそれぞれの中で区別できるような5つ6つ,あるいは7つ8つというような要素を区別していきたいと。そしてそれに合う項目を考えていきたいと。これはもう全くトップダウンで考えていったわけですよね。5因子というのは安定性のあるものだろうととりあえず考えて,そしてその5因子をどのように理解するか,そしてその尺度をどう考えるか,そういうトップダウンで考えていって項目を作成していくことに。ただそういうふうにして項目を作ると,似たような項目になってしまうということがありますし,できるだけ我々としては項目間の相関は低くて,そしてαは高くなるというような,そういうことを考えながら作るわけですけれども,なかなかそれはやっぱり難しかったですね。ですから,こんな項目はどうかということを色々考えて,本当にたくさん項目を考えてたくさん捨てましたね。しかも,これ実  際データを取ってみないとそれがいいかどうかということがわかりません。しかも項目数が結構多いので,その辺でやっぱりずいぶん苦労したと言えば苦労しましたね。

―――私の理解不足かもわかりませんが,日本の文化に適合した特徴を拾われているので, FFPQは数あるビッグファイブの尺度の中でも日本に一番適している尺度じゃないかなと,直観ですけど思います。

 あれはまったく訳ではありませんので,まずそこのところが違うと思いますね。もちろん,参照したのは事実で,特にNEO-PIなんかはすべての項目を全部私達自身でも訳してもみましたし,使えるかどうかということももちろん検討しました。ただ,例え項目だと言っても,ほとんどそのまま翻訳した類のものは,著作権の問題もあるでしょうし,できるだけ翻訳でないものにしようということ,それから,日本語でこなれたものにしようということ,そういうことは非常に考えましたね。被験者は日本人ですし,日本人の中学生のレベルでわかるということを我々は意識して考えました。もちろん,対象としては大人というか大学生位以上のレベルで考えていましたけれども,高校生位までは確実に適用でき,中学生でもわかるという,それ位で考えましたね。だから中学生に理解できるということになると,項目も長々としたものは良くないと。できるだけ短文で書くようにしようとか,そういうことはかなり気をつけて作ったつもりです。
 ただ,αが低いという問題とか,そういうのは残っています。一応尺度としてある程度完成したものにしたいという気持ちはありましたけれども,基本的にその作業に参加した人間が,尺度を作るということよりも,どちらかというと研究の方に興味や関心がある者が多かったのですよね。それで,αが十分でないというような問題があるとか,項目の多義性みたいなものがありますよね。そういうようなものもできるだけなくそうという配慮をするのはしたんですけれども,それでもまあそれなりにcontent validityがあるような項目は,例えばかなり多くの人が5段階評定の4や5というような評定をしたとしても,その項目がその内容をよく表しているという項目であれば,やっぱり残しておきたいなと思いました。そういう点で尺度としてみたときにはちょっとこれはまずいんじゃないかというような項目はいくらか残っています。それはもう別に,隠すことでもなんでもない,我々としては共通に認識している問題です。

―――今後どのような研究を,これからFFPQを使って研究をされる方々にしていただきたいかをお願いします。

 FFPQというのは,やっぱりある程度我々が今までやってきた限りでは,安定した一つのパーソナリティを見るための軸を測定できているというふうに思いますので,他の尺度を作ったときに,FFPQとの関係を見ておくと,やっぱり非常に役に立つということがあると思います。私自身も自己意識の問題なんかに関心があって,自己意識尺度なんかも見ておりますけれども,自己意識は5因子のなかのどこに位置づけられるのかというようなことが,当然問題になると思います。そういう時に,「 5因子はパーソナリティを網羅していると言っているけれども,本当にそうなのか」という問題が必ず出てくるわけですよね。自己意識の問題なんかでも,たとえば第5因子のopennessとか,あるいは我々の言い方をすれば遊戯性,そういうところに関係しているのじゃないかということも,一部考えられます。しかし,それだけではたぶんうまくいかないだろうと。で,やっぱり自己意識の問題というのは,ある意味内向性みたいなものとも関係があると考えられるとか,そういうときに,5因子の尺度との対応関係をきちっと見ていくと,結局自己意識の問題をどういうふうに位置づけて見ていくかということが,あ  る程度明確になってくる。と同時に,逆に5因子では足りないところも見えてくる,そういうところがありますよね。


■ 若手へのアドバイス

―――最後に,今後パーソナリティ研究者を目指す若手の方々に,何かアドバイスをお願いします。

 学生指導なんかをやっていて思いますのは,自分自身の興味や関心というのを,できるだけしっかり持って欲しいということです。そして,すぐにそれができなくても,その興味や関心を持ち続けることによって,ある時にまたそれでふと思いつきがあったりとか,あるいは他の人の研究を見たりするということで新たな研究が展開できるということが,長い目で見れば必ずあると思うんですよね。ですから,そういう意味で色んな興味や関心があれば,簡単に捨ててしまわずに,それを持ち続けていただきたいなということは思いますね。
 それから,人の研究を見た時にも,良いものはもちろん良いとして評価すべきでしょうけれども,どんな研究でも問題もあれば弱点もあるわけで,その辺りのところをしっかりと見ていただいて,「自分ならこう考える」というところを大切にしていただきたいなと思いますね。簡単に研究をしようと思えば,先行研究を模倣してやるというのが一番簡単なやり方でしょうし,私自身の5因子の研究なんてものも全く先行研究の模倣と言えば模倣に過ぎない。しかしその中でやっぱり,ある程度自分なりのアイデアというか,そういうものを出していくことが大事になってくると思うんですよね。
 私自身は,遊びというものを考えるべきであると思います。第5因子というのは遊びとして考えた方が面白いんじゃないかということで。遊びというのは,ある意味現実から離れた所に遊びの楽しさや面白さがある。ですから,考えによっては現実離れしすぎてしまうと狂気や妄想につながっていくというような,そういうところももちろんあるけれども,やっぱりその遊びの楽しさというものを考えられたらなという一種の願望を含めて,尺度構成をしているわけですよね。そういう意味で,模倣でないとすれば,その辺りのところには模倣ではないというところがあるだろうというふうに思っています。しかし,だからと言って,たとえばマックレーやコスタの言うような,opennessというものとまったく無関係かと言えばそんなことはない,かなりの程度に関係しているわけで,そういう意味では大きな目で見れば5因子の枠組の中にそれなりにきちっと体系づけられているというところはあると思います。研究も私自身にとってみれば,ある種の遊びなんですよね(笑)。

―――研究者はおそらく,この遊戯性の得点が高くないとやっていけない部分もあるのではないでしょうかね。

 あるでしょうね。ですから,もちろん勤勉誠実というのも研究者にとっては必要な資質にもなるでしょうけど,それだけでは新しい研究は中々出てこないので,その遊びの部分を生かしていただきたいなあと思いますね。

―――今日はお忙しいところ、長い時間どうもありがとうございました。

interview03.jpg(72870 byte)

 

 
Homeへ戻る 前のページへ戻る
Copyright 日本パーソナリティ心理学会