インタビュー企画7:堀毛一也

 第7回は岩手大学の堀毛一也先生にインタビューをいただきました。心理学の面白さや,若手に対する期待などをお聞きしたいと思います。

 


―――早速ですが,先生の現在の研究関心を教えて頂けないでしょうか。

 パーソナリティのコヒアランス,社会的状況研究,ポジティブ心理学,親密な人間関係,個人的課題,自己制御,社会的スキル…といったところでしょうか。パーソナリティ心理学と社会心理学の学際領域で研究を進めているつもりですが,いろいろ手を出しすぎて収拾がつかない状態でもあります。
 

―――先生が心理学の研究を決意されるきっかけは何ですか。また,研究関心はどのように変わってきましたか。そして,一連の研究が先生の中でどのように統合されているのかについてもお聞かせ下さい。

 まとめてお答えしましょう。心理学に関心をもったのは高校のときに心理学研究会に所属していたことがきっかけです。大学の卒論では対人認知研究を行いました。修士ではケリーのパーソナル・コンストラクト理論や認知的複雑性について研究をしました。個人の認知的独自性を強調する立場には大変共感を覚えたのですが,次第に認知だけじゃだめだろうと考えはじめて,社会的状況やスキルの研究を始めました。そうした中で,ミシェルやクラーエの考え方に接して,スキルも含めたパーソナリティのプロセス・モデルやコヒアラントなアプローチに関心をもつようになり,人間−状況論争や新たなパーソナリティ研究のアプローチについて研究するようになりました。一方で,領域特定的な研究も並行させる必要があると思い,親密な人間関係,特に恋愛関係や夫婦関係におけるスキルや主観的充実感・個人的目標課題の研究を行いました。これが今のポジティブ心理学への関心に結びついています。というわけで,テーマはいろいろ変わっていますが,本人の中では一連のコヒアラントな流れとして位置づけられているのです。スキル研究をやっている頃からパーソナリティのプロセス・モデル に関する発想があって,それに基づいてパートごとの研究をやっているようにも思います。統合にはほど遠い感じですけど…。


―――先生にとって,研究のおもしろさはどこにあるでしょうか。そして,価値のある研究とはどのようなものでしょうか。

 基本的にopen-mindedで,いろいろな論文を読むたびに面白さを感じています。パーソナリティやこころの捉え方についてさまざまな創意工夫が試みられること,いうなれば知的興奮が研究の面白さだと思います。他人の尻馬にのってばかりで,自身の創造性はとことん低いと思うのが反省点ですが…。そんなわけで,研究の面白さも個人的基準なので,人のためになるとか,社会のためになるとか,そういった価値観はあまりもっていません。このごろ大学でもそうした「貢献」がやたら問題にされるので閉口しています。でも,教育という点からすれば,こうした知的好奇心にあふれた研究の話をきちんとできることも重要な価値のひとつだと思いますがどうでしょう。ということで,価値のある研究と問われるなら,さまざまな関心や観点の広がりをもたらすことのできる研究が価値のある研究という答えになるでしょうか。


―――心理学,とりわけ,パーソナリティ心理学の社会への貢献について,先生はどうお考えでしょうか。

 なんだか文科省の役人のような質問ですね…。もちろん社会への貢献の重要性について否定するつもりはありません。とくにパーソナリティ心理学の研究成果は,行動予測という点からみれば役に立たないとされているので,考えなければならない問題です。ただ,そうした厳密な予測と経済界が求める類の実効性を結びつけて研究しようという方向性はどこか間違っているように思います。パーソナリティ心理学の研究テーマになるような問題は,もっとFuzzyで自由度の高い複雑系的性質をもっているように思うからです。だとすればどのような貢献ができるかということですが,人間存在や人間行動の面白さを科学的に描き出すことによって,人間一般に対するポジティブな見方を育てることとでも言えばいいのでしょうか,広い意味で精神的な健康に寄与できるような研究を行うことを通じた社会貢献をめざすことが重要な使命のように思います。


―――若手の研究者にどのような研究姿勢を期待していますか。

 とにかく今,日本の大学の数多くは,研究という観点からすると悲惨な状況に置かれていると言わざるを得ません。職を得ても,断固自分の研究を継続するぞという強い意志をもって取り組んで欲しいと思います。ただし体をこわさない程度に…。パーソナリティ研究でいえば,やはり自分のオリジナルなコンセプトを武器に国際的な活躍をする人が出てきて欲しいですね。大いに期待しています。


―――本日はお忙しい中,ありがとうございました。



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※左側の写真はパーソナリティ心理学会第16回大会にて:堀毛先生(右から二番目)と岩手大学院生諸氏のスナップ(2007年夏)
※右側の写真はバイキンマンを励ます堀毛先生

注:インタビューの内容は,メールでのやりとりを元に構成されています

 

 
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