インタビュー企画13:菅原ますみ

 第13回は、お茶の水女子大学の菅原ますみ先生にインタビューをさせていただきました。菅原先生は様々な縦断研究を通して、子どもの心身の発達について研究をされています。今回は先生と心理学の出会いから現在まで、そして先生のご研究とパーソナリティとの関係について、幅広くお話しをうかがいたいと思います。

―――最初に、菅原先生が心理学を志したきっかけを教えていただけますか?

 心理学を志したきっかけは、高校生の時に本を読んで、統合失調症などの精神疾患のようなすごく不思議な状態が人間にはあるんだなって思って、臨床心理学というか異常心理学に興味を持ちました。精神の異常な状態とか行動の異常ということに興味があって、学部に入ったんですね。それで2年生の進路振り分けで、社会学か心理学かすごく迷いました。フランクルにこっていたのですが、ホロコーストとかそういう異常状態を引き起こすのは、大きな時代とか戦争とか社会状況が人を異常にするのではないかと思う気持ちもすごく強かったので、社会学にも興味があったんです。でも社会学は人の内面をほとんど変数化してないということだったので、では心理学で人の方から社会の状況を見ていこうと。一番の原点はフランクルの「夜と霧」ですね。

―――人から社会をみるということで社会心理学を学ばれたのですか?

 そうですね。ところがついた先生がいきなりパーソナリティ心理学の詫摩武俊先生で、詫摩先生について人格の層理論というドイツ流の性格理論の教育を受けました。学部3年生の時に先生が主催した双子の研究に入れていただいて、双子の研究がすごく面白くて、遺伝と環境という問題に目覚めたんですね。思えば長いですね。

―――先生はご専門が発達心理学だと思っていたのですが、もともとがパーソナリティ心理学だったのですね。これまでの先生のご研究について教えていただけますか?

 卒論は双子を集めているある学校の卒業生を対象に郵送調査を詫摩先生がされて、その解析などをやらせていただきました。中身は対人認知のようなものだったのですが、そこで私が封筒を空けて調査用紙の整理やナンバーをうったりしたのですが、すごく面白かったんですね。選択肢への○のつけ方とか、筆跡とか、何かその回答内容以上にすごい似てるなって思って。長らく会っていないはずなのに、○のつけ方が一人が几帳面なら一卵性だともう一人もすごい几帳面という。そのはみ出しのところにすごく感動したんです。遺伝と環境ってすごく面白いなと思いました。これは最初から見るしかないというふうに考えて、新生児期から人格の発達を見ていかないと、わからないんじゃないかって思いました。遺伝と環境の問題のルーツは一番最初の環境の影響を受ける前から測定しておいてみていかないとわかんないよね、と思って修士論文では新生児を扱いました。

―――なるほど。それで新生児研究がはじまったんですね。

 そうですね。新生児行動評価尺度を使って50名くらいの新生児の行動特徴を測定しました。そのうちの9ケースくらいですが、2年間毎月1回の家庭観察を中心とした追跡研究をすることができて、それを修士論文にまとめました。修士の2年間、発達プロセスの研究をじっくりやらせていただいたわけですが、今の原型は学部の3、4年と修士の1、2年でできた感じです。

―――先生が研究者になったきっかけを教えていただけますか?

 私のもう一つの軸として、小さい子に役に立つお仕事をライフワークにしようと思っていたことがあります。学部の時の第一希望は公務員でした。母子保健や保健所の母子相談とかをやりたいと思っていました。でも公務員になれなかったからもうちょっと真面目に心理学をやろうって。実は学部のときオーケストラばっかりやっていてあまり心理学をやってなかったんですね。だけど、お話しした双子研究がすごく面白かったんです。だからもうちょっと研究をちゃんとやってみたいと思って修士課程に行きました。修論の研究がこれもすごく面白かったから、修士終わったときには研究者になろうと。食べていけないかもしれないけどやりましょう、と思いました。
         
―――修論が終わった段階では研究が面白いから続けたいと思われたんですね。

 修論はやっぱり目からうろこというか、百聞は一見にしかずっていうか。誕生3日目の赤ちゃんに新生児室で会って、その人を幼児期になるまで追いかけた、というのはすごく強烈な体験で、個性と適応との関係についてもっと深く知りたいと思いました。それで博士に行ったらちょうどそのときに、精神科医と組んで、今も長く続けている縦断研究に誘われるというチャンスがあったんです。研究としてはそこから今に続きます。
         
―――先生は一貫して同じ研究を続けていらっしゃるんですね。

 結局ラッキーだったんだと思います。こんなことやりたいなと思うと機会があった。大学院にいったら先輩がすごくいっぱいいたんです。赤ちゃんみたいなと思ったら、その先輩たちの中に赤ちゃんやっている人がいてっていう感じで。その後も、もう一回赤ちゃんみたいなと思ったら、今度は周産期の母親のディプレッションやってる先生たちに声をかけてもらえてっていう感じで、幸運が続いています。
         
―――今の先生の研究の興味のポイントっていうのはどのあたりにあるんですか?

 そうですね。パーソナリティの心理学者らしくないんですけど、何でこんなにパーソナリティにバリエーションがあるのかっていう、素朴なところに興味があって、そのファンクションを知りたいと思っています。やはり発達段階によって個性と環境のフィットネスみたいなものは変化していくわけですが、今はそれぞれの発達段階でその適応を維持するのは何か、という、とくに子どもの発達環境に興味があります。
         
―――適応を維持すること。

 不適応の出現というのもテーマになるんですけど、多くの人は不適応にならず、蛇行を繰り返しながら適応状態にいる。それを支えているプロセスってなんだろう、というところです。今までは病気になる道すじの研究が多かったと思うのですが、病気にならずに済む道すじやメカニズムを解明すると、未病のうちことが済んで、予防に役立つのではないかと思うんです。プロテクティブファクター(防御因子)といいますが、発病や不適応出現のリスクがあったとしてもいまつつがなくやれてる人の秘密を紐解く、というところに興味があります。
         
―――ついなぜ病気になったのかと病から見てしまいますが、本来であれば健康な人の秘訣の方が大切なのかもしれませんね。

 人生って傷だらけじゃないですか。それにしては人々は丈夫だなっていうか、人間の持っているレジリエントな面というのがかえってよく見えるような気がします。
         
―――先生のご研究とパーソナリティの関係について教えていただけますか?

 1980年代後半から90年代前半までは発達心理学はパーソナリティ心理学とあまりなじまなかったんです。パーソナリティとか気質というと運命決定論的にとらえられていて、環境決定論的色合いの濃い発達心理学にはなじみにくいところがあったんですね。でも2000年頃になってから私が出会ったのが、発達精神病理学という、発達心理学の中で病理発達を扱っていこうという領域で、その中ではパーソナリティはコアコンセプトの1つとして扱われていて、発達とパーソナリティが無理なく共存している。そういう枠にぴったりはまったな、という感じです。
         
―――これからパーソナリティ心理学を学ぶ人や若い研究者にひと言お願いします。

 発達心理学の中でもパーソナリティは重要な変数で、従属変数としても独立変数としても統制変数としても大切なものです。ライフスパンでパーソナリティの発達をみることと、ライフイベントや発達課題に対してパーソナリティがどんな機能を持っているかを研究することも今後期待されてます。パーソナリティは人の様々な適応や心理機能の個人差にかかわってくるので、テーマが何であっても、研究デザインのなかにパーソナリティ変数を入れておくと研究がふくらむと思います。
         
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