自著を語る

 

●荘厳舜哉『文化と感情の心理生態学』
(価格3,500円 金子書房 1997年4月刊)

 1997年4月,『文化と感情の心理生態学』を金子書房より刊行しました。動機は至っ て単純。人間はどういう環境で自分を作っていくのか,それが解明したかったのです。 人間は自分を取り巻く生態学的な環境から逃れることはできません。言葉を変えれば, 自分を取り巻く環境との相互作用の中でのみ人間は創り出されるのです。人間の環境に は自然の生態学的環境だけではなく,文化的環境も含まれます。人類が創り出してきた 文化は,ヒトがサルから分岐した原因のひとつですから,人間の行動を分析しようとす る場合,ダーウィン的進化と文化進化の関係をも考察していかなければならないでしょ う。ところが従来の心理学では進化の概念は全く無視され続けてきました。心理学は社 会進化と行動の複雑化の関係を棚上げにしたまま,その100年になんなんとする道を歩ん できたという訳です。私としてはそのような既成の心理学に飽きたらず,進化生態学的 な視座から心理学を考えてみたいと思ったのです。
 では何を軸とすればそのようなアプローチが可能になるのでしょうか。私はその軸と して,人間と動物が共通に持つ「感情」に着目しました。人間は感情の動物です。とこ ろが人間の感情意識構造はその生態学的環境の違いによって異なってきます。でも進化 生態学的な観点に立つと,動物にも「感情」は存在するわけですから,彼らの感情運用 システムも人間の運用システムの基礎として視座に入れる必要があるでしょう。ですか ら本書は,進化と文化,人間の感情意識構造や生態学的環境の違いを,思い切って心理 生態学という言葉の下に総合してみようという訳なのです。
 心理学は生態学的環境と人間の行動の関係を総合化した現象の学(現象学ではありま せん)であらねばならないというのが,私の基本的な考え方です。だけれども,言うは 易しおこなうは難しで,私の今現在の知識の総量では簡単にこの問題をまとめることは できないません。だから本書は,そのような試みの一番最初のモデル提示にすぎません 。モデルは変化して当たり前というのが私の考えでもありますから,今後とも随分と改 訂を重ねてゆく必要があるとも思っています。
 タイトルが大きいのは,大きくしなければ風呂敷に包めなかったからです。ほら吹き 荘厳,大風呂敷の荘厳の所以です。まあ,一度読んでみてやってください。以下に本書 の章立てを紹介します。

(目次)
第I部 ヒトの社会的行動の進化
 第1章 人の進化・文化の進化
 第2章 社会的行動の起源:感情
 第3章 感情制御の目的と社会的関係の発達
第II部 社会的行動の発達と感情意識構造
 第4章 個性と人間性の基礎
 第5章 親子関係の基礎理論
 第6章 文化と養育行動
 第7章 感情意識構造の文化差
   

 
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