性格テストをつくる −理論と実例−

開催報告

統計数理研究所 前田忠彦 (経常的研究交流委員会委員)

 標記研修会が、経常的研究交流委員会(以下経常委)の企画・運営により、19 99年3月13日(土)統計数理研究所を会場として開催された。参加者数は44名であった。以下、経常委のメンバーとして当日の運営および司会進行に携わった立場から、研修会の概要を報告し若干の反省点などを述べる。企画・運営した側としてのバイアスがかった内容とならざるを得ないことを予めご了解の上、お読みいただきたい。

 研修会は副題にある通り、「理論編(午前)」と「実例編(午後)」の二部構成で行われ、理論編の講師を池田央氏(立教大学名誉教授)、応用編の講師を成田健一氏(東京学芸大学教育学部)にお願いした。
 理論編の講義では、池田講師に「テストの理論的基礎−テストを作る人、利用する人のための必須知識−」と題し、いわゆるテスト理論一般についての話題を、最新の研究動向を含めてお話いただいた。心理学的測定法の標準的テキストに書かれている「信頼性と妥当性」というテスト理論の中核的な話題については、講義の後半部分でお話し戴いたが、この部分は、まさに理論のエッセンスを凝縮した講義内容となった。全く前提知識がない参加者(そういう参加者は多くはないと思われるが)にはやや高度と思われる内容を、図的表示と数値実験による例示を交えてコンパクトにまとめられたことが、同じ道を志す身としては個人的に大変印象深かったが、講義の中で強調されていた「(他の製品と同様)テストにも詳細な仕様書が必要」との話に、深く納得された参加者が多かったであろう。
 全体として斯学の第一人者らしい、該博な知識を反映した情報量の多い講義であったが、質疑応答を含めて2時間半という講義時間の設定にはやや無理があったのかも知れない。講義の前半では、性格テストばかりではなく、学力テスト、パフォーマンス・アセスメントを含めたあらゆる心理学的・教育心理学的テストの理論について、近年の動向をレビューされたが、この部分は、項目応答理論などの現代的テスト理論に関する話題、近年ご自身が関心をお持ちのCBT(Computer Based Testing)についての解説など、この分野での最新の内容が含まれ、多くの参加者にとって耳新しい内容だったものと想像される。この部分についての質問に十分時間をとれなかったし、実際、研修会後のアンケートでもこの続きをもう少し詳しく聞きたい、という要望が見られた。

 昼休みを挟んで午後の実例編では、成田講師に、「質問紙法による性格テストの作成」と題して、主として古典的テスト理論の枠組みで、特性論的性格理論に基づくテストのような「自己報告型質問紙法」による性格検査尺度の開発に関するお話を戴いた。実際には、自身が開発に参加され、論文として発表された「特性論的自己効力感尺度」の開発の経緯を、論文の流れに沿って説明して戴いた。質問紙を用いた尺度開発の研究プロセスを8つの段階に分け、その段階ごとに研究事例に促した丁寧な解説がなされたため、構成が明瞭で分かりやすい講義になり、参加者アンケートでも分かりやすかったとの評が大部分であった。調査対象者を地域コミュニティからランダム・サンプリングの手続きを経て選定している点など、開発過程全体を通じての丁寧さが印象的な研究であるが、参加者にとって最も参考になったと思われる点は、尺度の構成概念妥当性の検討結果を論文に合わせて丁寧に紹介された部分であろう。構成概念妥当性の検討は、一般に沢山の手段を用い、多くの側面について証拠を積み重ねていくことを通じて行われるわけであるが、この長く難しいプロセスの一部を構成する典型的な事例として、企画した側としても大変興味深く、話を伺うことができた。開発の8段階に関する一通りの解説が終わった後で、自己報告型質問紙作成上の注意点について、概括してお話し戴いたことや、丁寧な参考文献リストを準備いただいたことなども、特に研究歴の浅い参加者は有り難く感じたに違いない。質疑応答も多方面にわたり活発になされ、参加者の関心を惹きつける講義であったことを裏付けているように思われた。
 研修会最後には短いながら、午前中の池田講師を交えた質疑の時間を持つことができた。

 なお、文中しばしば言及したように、研修会の内容・運営等に対する評価を求めるアンケートも実施した。結果を見る限り、研修会は全体として概ね好評を得たものと認識しているが、1回の調査だけで多くのことは言えず、たとえば全般的満足の程度への回答結果は、今後の研修会の最低到達目標に設定されることになろう。

 最後に内容を離れたコメントを手短に述べる。研修会は、学会主催の経常的活動の一環として行われるものであるが、本研修会は、非会員の参加も受け付け、学会員のみならず、一般に性格テストの理論と利用に興味を持つ広範囲の方の参加を呼びかけた。その結果半数以上の参加者が非会員であったので、学会活動の広報という意味では一定の役割を果たしたであろうが、この数字は会員の相対的な関心の低さをあらわすという見方もできよう。そうした意味で研修会という研究交流活動の性格について、個人的にいくつか考えさせられるところが残った。
 個人的感想は措くとして、学会活動の命は会員の積極的な関与と参加である。経常委では、常に、シンポジウムや研修会でとりあげるテーマについての会員の声を求めている。思い付き程度のものでも構わない。このような企画を検討して欲しいというご希望があれば、また、経常委の活動に対する要望があれば、ぜひお寄せ戴きたいと思う。身近な委員に口頭で、あるいは下記委員長宛にご連絡願えれば幸いである。

 
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