各委員会から


経常的交流委員会をふりかえって


経常的交流委員会委員長
安藤寿康(慶應義塾大学)

 
「経常的研究交流委員会」
なんだかやたらに長い名前の委員会である。そういえば委員になってこのかた、この名前の意味をまじめに考えたことなどなかったことに気がついた。それで委員長を4年も務めていたのだから無責任なものである。杉山前委員長から委員を委嘱されたときにも、この名前を覚えることができなくて、「研究的経常交流委員会」とか「交流的経常研究委員会」とか言い間違えていたくらいだ。何となく、学会員が寄り集まって談笑するようなパーティーを毎月企画するようなイメージが脳裏をかすめたのを覚えている。
  はじめて委員会に参加して、すぐ「これは引き受けるべきではなかった」と思った。理由は今から思うと二つあった。その時の委員会では「性格心理学会として何をせねばならぬのか」という議論にみんなが真剣に取り組んでいた。要するにアイデンティティ確認の作業だ。その前まで務めさせていただいていた発達心理学会の企画委員の時と比較して、こうした問題をまじめになって議論することなど、いかにも若くて活気のある委員会であり学会であると魅力的に感じたことは確かだ。しかし私は自分で自分のことを性格心理学者だとは全然思っていないから、こんな議論には加われないと感じた。
  それにみんな日本のさまざまな研究者たちが何をしているのかをよく知っている。「その話題ならこの人とこの人、あの話題ならあの人とあの人」と、ご自分の専門分野以外の人材やその研究内容に関しても豊富なデータベースをお持ちのようだ。自慢じゃないが、私は長い間、行動遺伝学一筋で生きてきた一匹狼の人間である、などというと聞こえはいいが、どの学会でも知り合いやお友達がおらず、寂しい暮らしをしてきたのだ。だからとてもじゃないが、そんな貢献はできない。 
  初めの「アイデンティティ問題」については、最初の委員会のすぐあとの飲み会でその感想を口にしたとき、山崎晴美先生があの優しい笑顔で「私も性格心理学者じゃありませんから」、続いて誰だったか「日本に性格心理学者を名乗っている人は5人しかいない」「でも性格とは関係のない心理学者も一人もいない」などと次々と言いくるめられ、妙に納得させられて、結局今日に至っている。山崎先生は私や同期の矢澤圭介、伊坂裕子、篠崎信之先生と入れ替わりにその年に経常をお引きになったが、巡りめぐって、今年からインターネット委員会でご一緒させていただくことになった。
 データベースの貧弱さについては、今に至るまで私の欠点である。ただそれでも曲がりなりにもこの委員が務まった、というか、仲間に入れさせていただけてきたのはなぜかと考えると、この委員会には「イベント企画立案」と「運営実行」という二つの大きな仕事があって、たぶん後者の「運営実行」、つまりイベントのときに実際に手足を動かすのは嫌いでなかったからではないかと思う。中学・高校の頃から文化祭実行委員なんかを好んでやっていたし(だからシンポジウムや講習会をやるときはいつも文化祭のノリである)、研究者になってからも子どもや双子を大勢集めては学習教室と称して実験や調査をやることばかりを生業にしてきた。会場をとったり、段幕を作ったり、弁当を注文したり(今でもこれが一番楽しい)といった、「アカデミックでない」作業の方が性にあっている。
  幸いに、そしてとてもありがたいことに、委員長を引き継いでからも、「イベント企画立案」については、アイデア豊富で個性的な委員に恵まれた。これがこの委員会の一番の要であることはいうまでもない。企画は学会員向けの専門性を重視したものと、広く公に開いて学会活動を世にアピールするものとに大きく分けられる。そうした学会員内外に対して時宜に即した魅力的なテーマを立案し、アカデミックレベルも高く、しかも「性格心理学会らしい」企画を経常的に出すことは、確かに大変なことだ。しかし良い企画が立ち上がり、実際にすばらしい内容で、来てくださった方も満足して帰られるのを見ると、やはりやった甲斐があったと思う。しかも、実験や調査をし、研究会に出て論文を書いて、といった通常の研究活動とは異なる、学問活動の別の側面、とりわけ研究と社会との関わりについて考えさせられる。例えばたびたび行っている高校生を対象とした心理学講座では(性格心理学会らしいかどうかはいつも問題になるのだが)、実際に高校生と膝をつき合わせて語るにつけ、ある種の手応えと同時に、研究者が自分たちの営みをいかに次世代に示し、伝えていくかについて反省させられる。
  はなはだ頼りない存在の委員長だったが、任期を終えることになった。委員の諸先生に厚くお礼を申し上げる次第である。委員会活動を通じて、「同じ釜の飯を食った」ということばが似合う仲間と、貧弱だった人脈が広がるというありがたいごほうびを頂戴した。
  最後に、是非こんな企画を、というアイデアがありましたら、お近くの経常的研究交流委員にお気軽にお声をおかけ下さい。


Homeへ戻る 前のページへ戻る