ミニ特集*学会デビュー
「井の中の蛙、大海を知る」
――日本性格心理学会第12回大会にて、初めての学会発表を終えて――
小西瑞穂(同志社大学大学院文学研究科)

 「外は、広いなぁ」。これが初めて学会発表を終えた瞬間の感想だった。

ポスター発表の在席時間までの間、あまり緊張することはなく、同じく初めて発表する後輩の緊張をほぐすなど、自分でも予想外であったが、余裕があった。だが、在席時間となり、自分のポスター会場に足を踏み入れた途端、先ほどの余裕とは一転、一気に心臓が高鳴るのを感じた。「もういっそのこと、このリボン(発表責任者の印)を取ってしまいたい」。そんな気持ちにも一瞬、駆られた。幸い、ポスターの掲示場所が部屋の隅であったため、ある程度の安心感を得ることはできたが、どうしても落ち着かない。会場を見渡せば、他の先生方が熱心に意見を交わされている。私はと言えば、ひたすら参考資料を整理したり、きちんと置かれた整える必要もない椅子の位置を変えているだけであった。

 すると、一人の先生が声を掛けて下さった。私の研究について、質問をして下さったのだ。にこやかな笑顔でお話し下さったお陰で、しぼんでいた元来おしゃべり好きな私がパッと花開いた。それまでコントロールできなかった緊張が、心地よい緊張感へと転じ、自分の考えや意見を落ち着いてお話しすることができた。一人一人の先生方が、私の研究内容を真剣な眼差しでご覧下さり、熱心にご意見を下さった。これまで、考えもしなかったアプローチの仕方や、捉え方をご教授して頂き、ある種の衝撃が走った。「どうしてこのような発想の転換がこれまでにできなかったのだろう」と面食らった感もあった。ただただその先生方には感謝し、このような機会を持てたことに本当に幸せを感じた。

 自己愛人格傾向を研究課題とし、日々、学内の先生方や先輩方にご指導頂いているが、同じ研究をされている方はいない。やはり、どうしても学内でのアプローチの仕方は似通いやすく、そこでは疑問や意見が同一方向から出やすい。しかし、その世界しか知らなかった私は、そこでの問題解決に終始し、他の捉え方を考える余裕がなかったことを痛感した。また、発表したことで、自分の考え方や立場が明確になった。これは研究に携わって、初めて味わった感覚であった。日頃、ご指導頂いていることで、気づかぬうちに、自分の考えが固まっていたのであろう。大学院に入って2年目という研究を始めて間もない若輩者ながらも、喜びを感じ、ご指導頂いている先生・先輩方への感謝の念を強く感じた。

 発表終了後、ポスターを片づけながら、私は幸福感で一杯だった。あの幸福感は、一生忘れないだろうし、研究者の一人として忘れてはならないものだと思う。「興味深い研究をされてますね」。学会発表中、ある先生がおっしゃってくださった。お一人でも自分の研究に興味を持って頂ければ、という気持ちが強かった私にとって、それはこの上ない言葉だった。

 素晴らしいお言葉を頂いた今、その言葉を胸に、蛙は今日も井の中で研究を続けます。しかし、今までの井の中とは少し違います。なぜなら、大海があることを知ったのですから。そして、また大海に出て、いろいろな方とお会いできることを楽しみにしています。いつか大海全てを知り尽くす日が来るのを夢見ながら。


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