ミニ特集 現場からみたパーソナリティII
精神科医療におけるパーソナリティ
毛利伊吹(帝京大学文学部)


 私は臨床心理士として精神科医療にも携わっています。精神科の日常業務においてパーソナリティという用語は、患者さん個人のパーソナリティを意味するものとして主に用いられています。意識するかしないかは別として、患者さんに関わるスタッフはそれぞれに、その方のパーソナリティを理解しようと努めているのではないでしょうか。それはパーソナリティが、適切な対応・治療法を考える際の手がかりとなるからでしょう。相手の人となりを理解して、その人と関わりあう上での参考とする。そのようにとらえれば、対人関係一般にも共通することが医療の場でも行われているのかもしれません。
 さて、患者さんの全体像を把握する際には、各種の性格特性や知的能力を含めた上でのパーソナリティ、病態水準、症状、さらにその人の置かれている環境を視野にいれて考えており、そこでは多くの変数が扱われます。臨床心理士が医師から依頼されるなどして心理検査を行い、その全体像をまとめることもあるわけですが、それを行うのは、診断や臨床像の理解が難しい場合であることが少なくないため、仮説を検証するというよりは、仮説生成型の研究のような色合いが濃くなります。まず、心理検査や面接、観察を通してパーソナリティや現在の状態などに関するデータを集め、それからこの方の現状や問題の理解に関わる主な特徴を中心に整理する。そして、それらを有機的に統合するというように作業は進められます。有機的に統合と一言でいうほど簡単にはいかないのですが、その方の人間像を生き生きととらえることができるようデータに取り組みます。
 研究の面から考えると、この多くの変数から構成された魅力的な人間像というのはなかなか扱いが難しく、そのままのかたちでは研究に持ち込めません。そこで一つのやり方として、含まれている変数の中からいくつかを選びそれらを用いて検討を行うことが考えられます。ここで変数を選ぶというのは、本来絡みあって形をなしている複数の針金か何かをほぐし、中の何本かを選ぶのにも似ているようで、その過程でもとの形がわからなくなってしまうような、どこか質が変わるような印象を受けるところもあります。とはいえ研究を進めていく上で、選ばれる変数はできるだけ本質に関わるものであることが肝要です。ただここでも、心理臨床の場面において、ある個人に本質的な意味を持つとみなされた心理的特徴が、多くの人を対象としてみたときに同様に重要な位置をしめるとは限らないといった、臨床での知見を研究に反映させる上で留意すべき点が存在しています。
 臨床と研究を相容れないものと結論付けるつもりはなく、扱いにくいものではあるけれど、心理臨床では無視できず、かつ重要でもある複雑さや個別性をどのように研究に取り入れていくかという点に興味を持っています。臨床と研究に取り組む上で、個別性と普遍性、部分と全体といった視点を自在に行き来できれば、ものごとの意味がより深く理解できるように思えるのです。


Homeへ戻る 前のページへ戻る