ミニ特集 現場からみたパーソナリティII
家庭というフィールドで求められること
東海林麗香(東京都立大学大学院)


 私は新婚夫婦を対象に、夫婦間葛藤への対処の仕方についてのインタビューや電子メールを用いた調査を行っています。このような研究に「フィールド」という語を用いる不思議な感じがするかもしれませんが、家庭というフィールドの中で起こっていることを記述していくというスタンスでいることから、フィールド研究といってもいいのではないかと考えています。
 夫婦間葛藤への対処の仕方には非常に個人差があり、その個人差がどのようなところから来ているのかということは、研究者にとって非常に興味深いものです。そしてその個人差を解明しようと様々な検討が重ねられています。
 家庭というフィールドに関わっていて頻繁に耳にする心理学用語の一つが「性格(あるいはパーソナリティ)」です。「すぐ相手を責めるようなことを言ってしまうのですが、これって性格ですか?」「結局私のパーソナリティの問題なんですけどね」……。このような表現を聞くにつれ、「性格」という用語が広く行き渡り、関心を持たれているものなのだと実感します。
 彼らと語らっていると、「性格」という用語は行動の自動性や非意図性を表現するために用いられることが多くあります。また、固定的な側面を表現するために用いられることもあります。「性格なんだ」と説明づけができて安心することもあれば、「性格だから一生直らないんですね……」と落胆してしまうこともあります。「性格」という用語はポジ・ネガ両側面を持っていますが、とにもかくにも強力な説明体系となっています。
 フィールドに縦断的に、深く関わるようになってより感じるようになったのは、私たち研究者が個人差を説明したいと思うのと同様に、研究に協力してくださる方々(フィールドの方々)も、その個人差の説明を求めているということです。そして、協力者が説明を求めるときに用いられる用語が「性格」であり、家庭のような日常生活に近い場所では特に、フィールドで日常的に用いられる説明体系を用いていくことが必要なのだと感じます。
 研究がフィールドに近いものであればあるほど、協力者からフィードバックを求められたり、心理学的な説明を求められることが多くあると思います。その中でも特に「性格」という用語を用いての説明を求められることは多いのではないでしょうか。個人差を解明するというパーソナリティ研究の特性上、パーソナリティ研究にはフィールドにどっぷり漬かった研究はあまり多いとはいえず、フィールド研究者は「性格」という用語から距離を置いているような印象があります。しかし実は、研究がフィールドに近づくほど、「性格」をどう捉え、それを用いて何をどのように説明していくかについて考えていく必要があるのではないか、とフィールドに身を置きながら感じています。


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