【ミニ特集 国際研究の裏話】
招く側の経験
小湊真衣(早稲田大学大学院人間科学研究科)


 異文化研究の醍醐味と聞いてまず思い浮かぶのは、やはり何と言っても海外の方々との交流である。お小遣い研究の第一人者である山本登志哉先生率いる国際的お小遣い研究チームに無理やり参加させていただいている私は、これまでに一度だけ中国の調査に同行させていただいたことがある。そこで得られた友人や経験の価値は計り知れないが、比較文化研究に片足を突っ込みかけたばかりの私にはまだ、比較研究云々について語ることはできない。そこで今回は、「海外からの研究者を日本にお招きした時の私の経験」について少しだけ語らせていただきたいと思う。
 山本先生の研究チームは、これまで主に中国・韓国・ベトナム・日本での調査を行ってこられているのだが、今年の春頃、その各地の研究者の方々が日本の調査に来られることになった。その際、僭越ながら私は、アンケート受け入れ店舗&親子コーディネートのお手伝いをさせていただける機会に恵まれたのである。
 初めは、ただ先生方のお役に立ちたい一心で名乗りを上げたのだが、コーディネート作業はそう簡単ではなかった。適度に広く、適度にお客さんの入りがあって駅から近く、更に調査を許可してくださるお店を探し回り、特定の日時に特定の場所でインタビューを受けてくださる親子を探し回り…自分自身の研究のとき以上に精力的に積極的に、私は毎日奔走した。日本で自分の研究のためだけの調査をしているのであれば、予定日までにアポイントメントがとれなくても、多少場所が遠くても、当日相手にドタキャンされても何てことはないのだが、海外からのお客様をお招きするとなればそんないい加減なことはできない。なにしろ、海外からの先生方が滞在される日時も場所も融通はつけられないのだ。お願いするたび断られ続け、暗澹たる気持ちになっても、「実施できる否か」「成功できるか否か」ではなく、「必ず実施して成功させねばならない」という未来しか用意されていないのだとすれば、それに向かってひた走るほかなかった。しかし、それでも結局自分ひとりの力では限界があり、最終的には家族や先生方のご協力を仰ぎながら、どうにか無事に海外からの先生方をご案内することがで
きたのだった。
 異文化研究をする中で、海外の先生方と交流したり、現地にお招きいただいたりするのは本当に貴重な経験となる。しかし私はそれと同等にもしくは以上に、お招きする側に立たせていただけた経験は貴重なものだったと感じている。死に物狂いで研究の段取りをする経験ができたことで、私はこれまでの研究態度がいかに真剣でなかったかを思い知らされた。また、自分ひとりの力の限界を知り、先輩方に協力を仰ぐことの大切さを痛感したことで、これまで人に頼ることを極力避けようとしてきた自分の研究態度は、実は体面ばかりを気にして、目標に対するがむしゃらさを欠いていたことの現われではなかったかと反省するきっかけにもなったのだった。


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