Japan Society of Personality Psychology

書評『性格は五次元だった−性格心理学入門−』

村上 宣寛・村上千恵子(共著)
培風館, 四六判226ページ, 本体1700円, 1999年6月刊

書評の文責は書評執筆者となります


書評執筆者:富重 健一(東洋大学)

本書の構成は以下の通りである。

はじめに
第1章 だます/だまされる
第2章 性格にはいくつ次元があるか
第3章 日本の5因子研究
第4章 あなたの心を測ってみよう
第5章 あなたのタイプは?
第6章 あなたへの助言
第7章 事例からの洞察
第8章 心、健康ですか
あとがき・引用文献

 まず、性格心理学を専門とする人々の間でもあまり知られていない「バーナム効果」という現象(多くの人は、一般的な、誰にもあてはまるような性格記述を「自分だけ」に当てはまるとみなしがちだということ)に焦点を当てて、性格を測るという手続き自体に潜む問題性について厳しく指摘している。テレビや雑誌で取り上げられる「性格テスト」や、星座や血液型によるタイプ論的性格理解に対し物足りなさや違和感を感じてこの本を手に取った人は「そうだ、だから変だなと思ったのだ」と快哉の声を上げるだろうし、逆に「性格テスト」や「星座・血液型による性格類型」の延長としてこの本を手に取った人にとっては「何?それってどういうことだろう」と大きな疑問符(=問題意識)を突きつけられたような気持ちになるであろう。もちろん一般の読者だけではない。著者らがあとがきで「心の専門家は、全ての章をしっかり読んでください」と述べているように、性格心理学や心理臨床の領域で研究・教育・実践に携わっている我々にとっても、自分の研究・実践スタイルに対する根本的な見直しが迫られるような厳しい内容となっている。

 つづけて、5因子性格理論(Big Five理論)の説明を軸に、性格理論の流れ(類型論・特性論:古典から最新の知見まで)が平易に記述されている。この部分は、学部学生や専門学校生などを対象とした「性格心理学入門」のテキストとして好適だと思う。

 ついで、著者らが独自に作成・標準化した主要5因子性格検査(BigFive)についての紹介がなされている。これこそが本書の中核的部分である。5因子性格理論に基づく性格検査は日本でも他にNEO−PI−R日本語版(下仲他、1998a)やFFPQ(辻他、1997)があるが、データの蓄積が不十分であるということもあって、「これぞ決定版」というところまでには至っていないのが現状であるが、著者の作成した検査は、分かりやすく妥当性の高い類型化(「かけひき上手」「お人よし」「好色家」など)が行われており、一般読者の自己理解を促進するという点で一歩リードしているように思う。

 もちろん「一般受けがよい」だけではない。作成の経緯が詳細に記述され、受検態度に関する指標の導入、世代別標準化、厳密な信頼性・妥当性の検討、自動診断システムの開発、さらには助言・事例からの洞察を加えるなど、きめ細かい配慮のもと丁寧に作られた、有用度の高い検査であるとの印象を持った。7章では5因子性格検査の結果で「情緒不安定」であると考えられる事例に対して、より正確に精神状態を把握するためにMINI−124(MMPIに依拠して著者らが作成したもの)が併用されているが、特に臨床実践を視野に入れた場合、このようにMINIのような他の性格検査と、5因子性格検査を併用して用いることで、人格の多面的理解と、臨床的介入の方針の策定が可能になるであろう。

 わずか200数ページの分量であるにもかかわらず、内容はこれほどまでに豊富である。一般読者の期待を裏切らず、また性格心理の専門家や専門家を志す学生をもうならせる。先行する諸研究の問題点を指摘・批判し、そしてオールタナティブをきっちりと、そしてわかりやすく提示する。おそらくこれこそが、これからの「心理学のプロ」に求められるもの(筆者らの言葉を借りれば、「切れ味の良さ」)の1つなのであろう。これほどまでにプロ意識を全面に押し出した心理学書に私は初めて出会えたような気がする。学生時代のようにただ心理学を「学ぶ」のではなく、心理学で「仕事をする」ということがどういうことなのかを教えられたような気もしている。  今後「性格検査」や「質問紙による性格の調査」に関わる心理学研究者、および心理臨床に携わる人々、学生からの反響が大きくなるのは間違いないと思う。

1999年11月22日
書評者:富重 健一(東洋大学文学部・日本性格心理学会会員)
   


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