若手研究者研究紹介5:
赤坂瑠以(お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科)
第5回は,若手研究者の赤坂瑠以先生にご自身の研究をご紹介いただきます。赤坂さんは2009年3月に博士(人文科学)の学位を授与され,現在は,お茶の水女子大学(人間文化創成科学研究科)に在籍中で,社会心理学の分野で活躍されています。ここでは,赤坂さんが行われてきた一連の研究の中から「携帯電話の使用が対人関係に及ぼす影響」について,この研究を始めたきっかけや思い入れ,今後の展望も含めてご説明いただきました。
携帯電話の使用が対人関係に及ぼす影響
お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科
赤坂瑠以
研究を始めた動機
メディアの影響に関する研究は,社会心理学の領域において国内外を問わず見られますが,私は,その中でも,比較的新しいメディアである携帯電話を対象に研究を進めています。携帯電話を対象にした理由は,いくつかありますが,一つには,私が研究を始めた当時,携帯電話が急速に普及し始めた時期であり,その悪影響がメディアでもさかんに指摘されていたことが挙げられます。とりわけ,メディアでは,若者が携帯メールを過度に使用することで,対面コミュニケーションを行う機会や意欲が減少し,現実社会の他者との付き合いが希薄化するのではないかと論じられることが多くありました。当時の若者の例に漏れず,私も当時は,しょっちゅう携帯電話でメールをしたり,携帯電話をデコシール(携帯電話に貼るシールやマスコットのこと)やストラップで飾ったりしていて,携帯電話が大好きな若者でしたが,そんな風に携帯電話を使うことが本当に悪影響をもたらすのかと,感覚的に疑問を持っていました。しかし,そうした悪影響を実証的に検討した研究はほとんど見られなかったため,自分できちんと調べてみたい,そして,もし悪影響があるなら,それを明らかにして,改善したいという気持ちをもって,研究を始めました。新しいメディアを対象にするということは,ギャンブルでもありましたが,同時にスリーピング・ビューティ(眠れる森の美女を目覚めさせられる?)でもあり,未知の発見ができることを楽しみに,模索を始めました。
研究の知見
このような素朴な問題意識からスタートした研究は,当然,初めは波乱と模索ばかりでした。また,私は,学部ではフランス文学を専攻しており,心理学は修士から学び始めたため,心理学のお作法も身についていませんでした。しかし,私が立ち往生をしていると,いつも誰かが不思議と,すっと道を示してくれました。心理学の手法,研究の進め方,論文のまとめ方など,指導教官,先輩,後輩,同僚にたくさんの指導やサポートをいただき,まさに,そうした対人関係に支えられながら,研究として成り立っていったと思います。
そして,私は,携帯電話の使用が,対人関係の広さ,深さ,近さにどのような影響を及ぼすかを検討し,携帯電話が対人関係に及ぼす影響のモデルを提示することを目的として,小学生から大学生を対象としたパネル研究を行ってきました。そこからわかったことをまとめると,携帯電話の影響は,発達段階により異なり,小学生では,主に親子関係に効果があり,中学生から高校生になると,携帯電話の使用量に変化が見られると同時に,家族関係への効果は減少し,友人関係への効果が増加していき,大学生頃になると,効果は全体的に小さくなっていくのではないかと考えられました。また,広さへの影響では,対人関係を広げる効果が認められ,その効果は,携帯電話の使用が,コミュニケーションの不足を補いうるかということと関連している可能性が示唆されました。一方,深さへの影響は小さいものであることが示され,一部では,小学生で,親子のコミュニケーションを減少させることや,中学生で,家族との信頼感を低下させることが示されました。さらに,近さへの影響は,発達段階により,正と負の両面の効果がある可能性が示されました。これらのことから,携帯電話は単純に対人関係に悪影響を及ぼすものではなく,使用量や使用の内容の違い,発達段階の違いなどにより,その効果は異なるものと考えられました。そして,こうした知見を踏まえ,携帯電話が対人関係に及ぼす影響に関する3次元モデルを作成し,このテーマで,博士論文を執筆しました。また,その他の研究として,携帯電話を使用した学習効果を検討する実験研究や,携帯いじめに見られるような,携帯電話の使用と攻撃性との関連を検討する調査研究なども行っています。これらの研究を重ねていくことで,使用者が,携帯電話をより有効に使用できるような手がかりを提供できたらと考えています。
今後の展望や目標
今振り返れば,携帯電話に関する研究を始めた当時,私は,携帯電話が好きだっただけではなく,携帯電話でつながる対人関係が大切で,そうした相手とのつながりを維持してくれる携帯電話を必要としていたのではないかと思います。今は,携帯電話の使用量も,付けているストラップの数も減りましたが,それでも対人関係は,私にとって大切なものであり,研究の対象としても,関心の高いものです。同時に,携帯電話も,今日,ますます多機能化の方向に発展しており,ワンセグ,お財布ケータイ,ゲームなど,多様な機能が搭載されています。したがって,コミュニケーションツール以上の多様性をあわせもつようになった携帯電話が,使用者の対人関係やパーソナリティにどのような影響を及ぼすのかについて,今後も研究を続けていきたいと思います。
また,心理学を通じて,たくさんの人と会いたい,会って,研究のこと,心理学のことなど,たくさん話してみたいとも思っています。その一つとして,研究から得られた知見を,携帯電話を使用している子どもや保護者の方々にも知ってもらい,役立ててもらいたいという思いから,社会人セミナーや学生セミナーでの講演も,積極的に行っています。そこでいただく意見や感想から,気づかされることはとても多く,それらを研究に反映して,使用者にとって役立つ知見を提供していきたいと思います。
最後になりましたが,これを読んでくださった皆さんに感謝を申し上げると共に,皆さんと学会等でお会いできるのを楽しみにしています!
(右上の写真は、赤坂さんが研究を進めているお茶の水女子大学のキャンパスです)
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