若手研究者研究紹介6:
浦田 悠(名城大学総合学術研究科)

 

 第6回は,浦田悠先生にご自身の研究を紹介していただきます。浦田さんは2008年3月に京都大学大学院教育学研究科博士課程を学修認定退学され,現在は,名城大学(総合学術研究科)に研究員として在籍しておられます。ここでは,浦田さんの研究の軌跡と今後の展望について語っていただきました。

人生の意味についての心理学的研究
 ―人生心理学の再生にむけて―

名城大学総合学術研究科
浦田 悠

 私はこれまで「人生の意味」の概念に関心を持ってきました。現在は、概念的問題と実証的研究を整理して構成したモデルをもとに、人生観を幅広く捉えることができるような方法論を提示していきたいと考えています。ここでは、私のこれまで研究の概要や今後の方向性などを簡単にご紹介させていただければと思います。
人生の意味への問いの意味
 「人生の意味とは何か?」という問いは不思議な問いです。普通「〜の意味とは何か?」という問いの答えは、「『よい』の意味とは何か?」「『意味』の意味とは何か?」というように、「?」の部分についての定義や何らかの説明であったりします。しかし「人生の意味とは何か?」という問いは、単に「人生」という言葉の定義を求めて問われるわけではありません。むしろその問いで問うているのは、自分が生きていることの価値や目的、さらには根拠や理由などであることが多いようです。このような、ある種独特な人生の意味の概念を学問として取り上げるための基礎として、まずは「人生の意味という言葉で問われているものは何か?」、すなわち「『人生の意味』の意味とはなにか?」が問われなければなりません。したがって、心理学的な研究に先立って「人生の意味」の意味に関する哲学や人間学の論考も含めて概念整理する必要があると感じ、できるだけ幅広くそれらを渉猟することから考察を始めました。

人生の意味の概念整理
 レビューを進めていくと、「人生の意味」の意味に関しては、哲学的な論考でも、心理学や社会学の調査でも、大別して二つの異なる立場が見られることがわかってきました。すなわち、人生の意味は「私(たち)が創造するのか」、それとも「世界や神から与えられるのか」、という二つの立場です。これらは、主観的意味と客観的意味、個人的意味と宇宙的意味、地上的意味と究極的意味というような対比で捉えられてきました。そこで、私は、主観的・個人的・地上的な意味を、「生活の意味(meaning in life)」、客観的・宇宙的・究極的な意味を「人生の意味(meaning of life)」という用語でまとめ、「生活の意味」を「人生の意味」が包含する入れ子モデルで捉えることにしました。また、意味をいまだ問わない「前意味」、意味の否定としての「無意味」、全ての意味を含む「超意味」、さらには意味・無意味をもはや問わない「脱意味」などの概念も、入れ子モデルの中に位置づけました(浦田、印刷中)。

意味の源とそのつながり
 「人生の中で大切なものは何ですか?」、「何があなたの人生を意味あるものにしていますか?」などの問いをもとにした各国での調査では、喜びや快楽、家族関係や恋愛関係といった「生活の意味」の次元から、人類の進化への貢献や世の中への奉仕、神への信仰やスピリチュアリティといった「人生の意味」の次元まで、幅広い「意味の源(sources of meaning)」が見られています。そこで、現在は入れ子モデルとこれらの知見を基にしつつ、意味の源に関する尺度(Important Meanings Index: IMI)を作成し、それぞれの意味の源を追求する程度や実現している程度、およびパーソナリティや心理的健康との関連などを検討しています。
 しかし、人が自らの人生に意味を感じるとき、一つの意味の源で十分ではないことが多いのではないでしょうか。たとえば、「恋愛関係によって喜びと快楽を感じている」「神への信仰に基づいて世の中に奉仕し、それが自分の喜びにつながっている」というように、意味の源同士の有機的なつながりによってこそ、人生の意味が深まっていくと考えられます。そのため、今後は、意味の源のつながりを探る意味システム・アプローチの観点を応用しつつ、人生の意味の(再)構築を支援する方法論を構築していきたいと考えています。

人生心理学の再生に向けて
 今からほぼ百年前、勝水淳行という日本の心理学者が『人生心理學(1910年)』(右上の表紙写真)という本を著しています。その本では「人生心理學は、人心をして常に平かにしようとする、その方法を研究する科学である」と定義され、東西の諸学や諸宗教における人生修養の方法論が整理されています。当時を代表する哲学者の井上哲次郎は、この本に序文を寄せ、「『人生心理學』という學科は、今後次第に起つて来ないとも限らぬ。...心理學上の問題を人生本位の立場から考察して見ると云ふ事も、亦ナカ--興味のあることである」と評しています。しかし、残念ながら井上の予言は外れ、この用語は広まることなく忘れ去られてしまいました。私は、現代心理学の様々な理論や方法を踏まえつつ、「人生本位の立場」から「人心をして常に平らかにしようとする」心理学の領域を新たな形で再生させ、百年ぶりに「人生心理学」という用語を(細々と)再生させていきたいと考えています(本当は、「人生の意味の心理学」というのがまどろっこしいので短く表現したい、というのも大きな理由ですが……)。

おわりに
 人生の意味は、生きがいやウェルビーイング、QOLやスピリチュアリティ、さらにはアイデンティティやライフストーリーといった概念を横断する幅と深みのある概念であると思います。今後は、これらの他領域で活躍されている研究者の方々からもご示唆をいただきながら研究を進めていきたいと思っています。学会等でお目にかかる機会がありましたら、少しでも関心を持っていただければ幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

文献: 浦田悠 (印刷中).人生の意味の心理学モデルの構成―人生観への統合的アプローチにむけて― 質的心理学研究,9.
 
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