若手研究者研究紹介8:
畑野 快(京都大学大学院教育学研究科)
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第8回は,若手研究者の畑野快先生にご自身の研究をご紹介いただきます。畑野さんは京都大学(教育学研究科)に在学中で,大学生のアイデンティティ形成と学業の関連性に関する研究を行われています。ここでは,畑野さんが現在の研究を行うきっかけとなったこと,現在までの研究成果,今後の展望などについてご説明いただきました。
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大学生のアイデンティティ形成と学業との関連性
京都大学大学院教育学研究科
畑野 快
研究を始めたきっかけ
アイデンティティに興味を持ったのは、学部3回生の時でした。これまで学校という機関に所属する児童、生徒そして学生としての自分が社会に出る。その中での葛藤をどのように解決していくか。当時の友人たちは就職活動に熱心でしたが、特にやりたいことも無い自分にとってEriksonのアイデンティティ論は非常に興味深く、またリアリティのあるものでした。それ以来、大学という少し変わった空間の中で日々をどのように過ごすのか、どのように生きるのかということについて興味があることに気づき、アイデンティティについての研究してみたいと思い、現在に至ります。
現在の研究状況
大きくとると私の研究は大学生のアイデンティティ形成に集約されます。アイデンティティ研究は非常に難しく、様々な現象と関連しています。そしてアイデンティティという言葉が必要となる文脈も様々です。例えばアイデンティティとは大きくいって自己と他者との一致の感覚といえると思いますが、この他者をどのように想定するかでアイデンティティを扱う文脈は変化します。つまりアイデンティティの感覚は精神分析的な解釈が求められる臨床的次元から、そこまで必要とせず意識レベルでの解釈によって理解可能なレベルまで様々なものがあると考えられます。今私が興味を持っているのは、社会との接続の中での大学生の葛藤です。それは臨床的な観点でなく、より教育的な観点でのアイデンティティ形成に興味を持っています。すなわちEriksonのアイデンティティ論というよりもどちらかといえばMarciaらの研究に近いレベルのアイデンティティの水準を対象にしています。そのため私が対象とするアイデンティティは非常に具象度が高いものです。その中で特に注目している点が学業とアイデンティティとの関連です。これまで大学の存在意義はあまり明確に問題視されていませんでした。しかし年功序列や終身雇用の崩壊に伴う産業構造の変化は、青年に「大学でいかに過ごすか」という問題を引き起こしています。すなわちこれまで良い大学に入ることが良い就職先との関連を意味しており、大学への入学が目的でした。大学で学業に力を入れるよりもサークルや友人関係を充実させることが重要であり、当時はそのような領域での自己の問い直しがアイデンティティ形成と関連していたと考えられます。しかし近年、良い大学に入ったとしても自分が満足できる就職先を見つけることができるとは限りません。そのため、単に大学に入学するだけでなく、大学での学業的生活をどのように過ごすか、そしてその過ごし方が自分の就職先や生き方を決定することにつながると考えています。このことは大学での授業への出席率の増加を示すデータや、大学生の学業に対する意識の高まりを示す結果から読み取ることができます。ここで単に「学業とアイデンティティが関連する」ということを言いたいのではなく、問題としたいのは社会状況の不安定化というある種、外発的なプレッシャーがかかった中で、大学生にとって学業がどのような意味を持つのかという点です。それは学業が現在の大学生にとってどのような意味をもち、就職や将来とどのように関連しているのか、すなわち大学生のアイデンティティ形成において学業がどのような意味を持つのか、という点が重要であると考えています。このことは大学での学業的生活の過ごし方と自らの将来をどのように接続させるかという問題、と言い換えることができるかもしれません。このような観点からアイデンティティを捉えると、概念レベルでなく文脈に基づいた研究が求められます。そのためどのような文脈でアイデンティティや学業を扱うのか、どのような目的でアイデンティティを問題とするのかということを明確にすることがまず重要であると考えます。
今後の展望
今後の展望としては、日本の大学生が学業をどのように捉え、どのように意味づけているのかという点をボトムアップ式に調査する必要があると考えています。また学業には様々な意味合いが含まれているため、私の研究では学業のどの側面に焦点を当てるのか、また調査対象の環境的要因や社会的地位も考慮する必要があります。このように抽象度の高いアイデンティティ研究において問題とならなかった様々な点を統制しながら研究を行うことが重要であると考えています。そうすることで大学教育に対して様々な示唆を与えることができると考えています。
最後になりましたが、研究発表の場を与えてくださったパーソナリティ心理学会関係者の方々、並びにこれまで研究を支えてきてくださった方々に厚く御礼申し上げます。これからもどうぞよろしくお願い致します。
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