若手研究者研究紹介11:
本田 周二(神戸学院大学人文学部)

 

 第11回は,若手研究者の本田周二先生にご自身の研究をご紹介いただきます。本田さんは神戸学院大学人文学部で,青年期における友人関係の維持を動機付ける要因について研究を行われています。ここでは,本田さんが現在の研究のきっかけとなったこと,現在までの研究成果,今後の課題などについて ご説明いただきました。


青年期における友人関係の維持を動機付ける要因の検討

神戸学院大学人文学部
本田 周二

はじめに
 「一年生になったら、一年生になったら、ともだち100人できるかな?」
 有名な日本の童謡にも表れているように、私たちは、友人をたくさん持つことが非常に重要なことであると捉えているところがあります。心理学の分野の中でも、友人関係は重要な対人関係のうちの一つとしてこれまで数多くの検討がなされてきました。このように、多くの人にとって、友人は非常に大事なものとして考えられているようです。しかし、友人関係はなぜ大事なのでしょうか。友人関係の何が大事なのでしょうか。本当に友人関係は重要なものなのでしょうか。これが、友人関係を研究しようと思った出発点になります。  

研究の状況
 友人関係とは、「親密さ、信頼、忠義、関係としての楽しさによって特徴付けられた個人的、自発的な関係」であり、「ある程度自由に関係を形成、維持、解消できる間柄」として研究が行われてきました。この概念から導き出される友人とはサポーティブな他者であり、親密で深い関係を築くことが望ましいと考えられます。しかし近年、希薄化した友人関係や選択的な友人関係と呼ばれるような、従来の友人関係の枠組みでは捉えきれない友人の存在が明らかになってきています。
 このことから考えられるのは、人は必ずしも付き合いたい人だけを友人として選択しているわけではないということです。更に言うなれば、自らが積極的な理由をもとに友人関係を形成しているわけではないということです。この点は、友人関係が、外的な報酬や罰、他者からの働きかけによって維持されることがあるという最近の研究からも示唆されます。それでは、なぜ自由に関係をコントロールできるはずの友人関係において、付き合いたくない人とまで友人関係を維持する必要があるのでしょうか。それは、友人を多く持っていることそのものに価値が見出されているからではないかと考えられます。ここでの価値とは、以下の2つが考えられます。1つは、友人を多く持つということは、サポート源を多く持つということになるため、個人の精神的健康にとって有益であるということです。この点は、これまでの友人関係の研究から明らかにされています。もう1つは、友人を多くもつことにより、他者からの自分自身に対する評価が高くなるのではないかということです。他者からの評価が高くなれば、結果的に今後より有益な相手との関係を形成できる可能性が高まります。
 そこで私は、友人の数(多い・少ない・統制条件)がその人の印象にどのような影響があるのかについて、質問紙実験によって検討を行いました。ある人物の紹介文を読ませ、その人物に対する印象をたずねた結果、紹介文の中に友人の数が多いという記述が入っている人物への好意度が最も高く、友人の数が少ないという記述が入っている人物への好意度が最も低くなりました。ここでは、他にも、回答者の実際の友人の数や、友人の数が多いことは重要だと思うかなどについて回答を求めました。しかし、この二つの変数は、紹介文の人物への好意度に影響を与えていませんでした。つまり、多くの人が友人の数によってその人への評価を変える可能性があるということです。現在は、好意度以外の要因も考慮に入れながら、友人の数がその人の印象にどのような影響を与えるのかについて、研究を進めています。


今後の課題
 友人の数によって、自分自身の評価に影響があるのであれば、人は今持っている友人関係を出来る限り維持するように行動すると考えられます。もし、友人との間で葛藤が生じた場合には、なるべく相手との関係を良好に保つことができるような方略を取るでしょう。しかし、相手に合わせた行動を取りすぎることは、本人の精神的健康を低下させることが明らかになっています。このような、相手との関係を維持するために相手に合わせることと、自分の意見を主張することで自分の精神的健康を保つことのバランスをどのようにとっているのかについて、今後検討していきたいと考えています。
 さらに、対人関係はそれ自体で完結しているのではなく、周りの関係に影響を与え、同時に影響を与えられていることを考えると、ある二者間で生じた出来事やそこでの本人の行動は他の人へ伝わる可能性があります。人は目の前にいる相手だけではなく、周りを意識した行動をする必要があると考えられます。なぜなら、そこでの行動は目の前の相手だけではなく、周りからも評価されることになり、その結果、自分自身の評価が決定されていくからです。従来、二者関係として扱われることの多かった友人関係を三者関係や集団の中に位置づけることにより、友人関係の持つ特有の機能を明らかにすることができればと考えています。最後になりましたが、このような研究発表の場を与えてくださいましたこと、心より御礼申し上げます。これからも、試行錯誤しながら友人関係に関する研究に邁進していきたいと思いますので、よろしくお願い致します。

 
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