若手研究者研究紹介13:
西浦 真喜子(大阪大学人間科学研究科)

 

 第13回は、若手研究者の西浦真喜子先生にご自身の研究をご紹介いただきます。西浦さんは大阪大学大学院(人間科学研究科)に在学中で、社会心理学の分野で活躍されています。ここでは、西浦さんが精力的に研究されている「友人に対する魅力とその規定因に関する検討」について、研究を行うきっかけとなったこと、現在までの研究成果、今後の展望などについてご説明いただきました。


友人に対する魅力とその規定因に関する検討

大阪大学大学院人間科学研究科
西浦 真喜子

はじめに
 「友人っていうのはね、多少なりともメリットがなきゃ付き合ってられないもんだよ!君はなぜ友達と付き合ってるの?」
 「それは、一緒にいて楽しいし、心がなごむし…」
 「それが、誰もが気付かずに、でも当たり前に求めてしまう『心のメリット』なんだよ」
 
 私にも友人はいまして、一緒に過ごす中で楽しいときもあれば傷つくこともあります。友達に関することで悩んだり、考え込んだりと落ち込む経験もありました。そんな私にとって、この『心のメリット』という言葉は心に残って離れないものとなりました。そして、同じように友人関係で悩んだり心を痛めたりしている人にとって、この言葉がわずかでも何かのヒントとなるのではないかという思いに駆られました。
 では、『心のメリット』って何でしょうか。そこから私の探求が始まりました。

研究状況
 私が専門とする社会心理学では、対人関係開始のきっかけは「対人魅力」であると言われています。しかし、魅力についての研究は未知の他者や初対面の相手を対象としたものが多く、既に出来上がっている関係における魅力についてはあまり言及されてきませんでした。特に、同性友人となるとことさら少なく、例えば恋愛関係における魅力の研究は盛んですが、「友人に対する魅力」を取り上げた研究はあまり見当たりません。もちろん、友人関係を対象とした研究は多くあります。友人概念の整理、友人関係の機能、など友人関係そのものを検討した研究、友人関係の希薄化などの若者の友人観に関する研究、友人関係の発達的変化を検討した研究など非常に多様です。しかし、相手に何を感じ、関係を続けているのかという1対1の基本的な関係からの検討は意外にも少ないのです。友人に対する魅力、という観点はまさしく私にとって魅力的な研究であると思えました。この友人に対する魅力こそが『心のメリット』ではないかという仮説が自分の中にはあります。
 そこで、自由記述法による調査から項目を選定し、友人の魅力が何であるかの因子分析を行いました。その結果、安心感、よい刺激、誠実さ、自立性の4因子が得られました(西浦・大坊, 2010a)。これらは、対人認知における基本の3次元に対応していました。個人的親しみやすさは安心感、力本性はよい刺激、社会的望ましさは誠実さにそれぞれ対応しています。友人の魅力とは、人に対する単なる印象から自分にとっての意味付けが行われたものであると考えています。さらに、友人に特徴的なものが自立性であると考えています。よく「ベッタリ付き合っているのは友人じゃない」などと言われますが、互いに適度な距離感を確保できていることも友人に対する魅力です。友人関係は多くが自発的に形成される関係ですが、だからといって相手との距離が近すぎることは必ずしもポジティブだとは考えられていません。仲が良い、かつ、依存するような関係ではない、というところに友人関係の良さがあるのだと言えます。
 私の研究は、この友人に対する魅力を従属変数として行っています。これまでの研究では、独立変数として類似性や熟知性の効果を検討しています。これらの研究から、面白いことに関係初期を対象とした従来の研究とは逆の結果が得られました。例えば、友人関係は自己開示を通して相手に対する熟知性が高まるほどに相手に対する魅力も高まるとされています。ところが、関係の確立した段階では必ずしもそうではありません。熟知性が高まると、安心感や誠実さといった魅力は高まりましたが、よい刺激と自立性に関しては、負の相関かほとんど相関関係が見られませんでした。また、友人との会話場面の実験では、既に相手が知っているような話をするよりも、相手に関する今まで知らなかった話をされることで、その相手に対する魅力を維持する効果が示されました(西浦・大坊, 2010b)。
 また、一般に相手と似ているほど相手に対する魅力が高まる類似性魅力仮説があります。これについても、自分が思う類似性の知覚に相手からの類似性の知覚の程度を考慮すると、自分が似ていないと思っていても相手が似ていると思っていればその相手に対する魅力は低下しないという知見も得られています(西浦・大坊, 2009)。これは、相手による類似性の知覚がコミュニケーションを促進し、魅力を維持していると考えられます。この結果は、従来競合する要因として議論されてきた類似性と相補性をまとめるような結果ともいえますが、いまだ考察が不十分でありますので今後追試を行いよりクリアな知見を提供できるよう現在も努めています。最終的に、友人に対する魅力とその規定因を関係の段階からまとめることを目標としています。

今後の展望
 友人関係は、可能性で考えると無限に増やすことができます。これは他の対人関係と比べて友人関係において特徴的な性質であると考えています。現在は1対1の友人関係を検討していますが、これを1対複数の友人関係に拡張して検討することで、個人が持つ実際の友人関係とその特徴をより現実に即した形でとらえることが出来ると考えています。また、その際に1対1のときと1対複数のときでそれぞれの要因の効果がどのように異なってくるのかにも興味があります。
 私は、友人関係やひいては対人関係で悩んだりつらい思いをしたりしているときに役立つような知見を提供できることを目標としています。いかにして心のメリットが得られるのかが示唆できるよう研究に取り組んでいこうと思います。また、悩んでいるときでなくとも人を豊かにするような知見を提供することも重要だと考えています。こういう研究があるんだ、ということを知るだけで個人の世界が広がったり何かを考えるきっかけになったりすることがあるのではないでしょうか。ただ、これらの目標とそれまでに書いてきた研究の現状が乖離していることは十分に承知しておりますので、今後その間をうまく埋められるよう研究を続けていきます。
 最後になりましたが、このように自身の研究を発表させていただける場を与えてくださいました日本パーソナリティ心理学会の方々に御礼を述べさせていただきます。どうもありがとうございました。

【研究成果】
西浦真喜子・大坊郁夫(2010). 同性友人に感じる魅力が相手の魅力に及ぼす影響―個人にとっての重要性の観点から― 対人社会心理学研究, 10, 115-124.
西浦真喜子・大坊郁夫(2010). 同性友人関係における相手からの新奇情報が魅力の維持に及ぼす影響, 日本社会心理学会第51回大会論文集, 76-77.
西浦真喜子・大坊郁夫(2009). 自己と相手の類似性評価と実際の類似性が相手の魅力に及ぼす影響, 日本パーソナリティ心理学会第18回大会論文集, 168-169.
など

 
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