若手研究者研究紹介14:
落合 萌子(筑波大学人間総合科学研究科)
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第14回は、若手研究者の落合萌子先生にご自身の研究をご紹介いただきます。落合さんは筑波大学大学院(人間総合科学研究科)に在学中で、社会心理学の分野で活躍されています。ここでは、落合さんが精力的に研究されている「他者からの拒否に対する対人不安者の反応」について、研究のきっかけや現在までの研究成果、今後の課題などについてご説明いただきました。 |
他者からの拒否に対する対人不安者の反応
筑波大学大学院人間総合科学研究科
落合 萌子
研究のきっかけ
学部の頃から心理学を専攻していました。心理学を選んだ理由は、「なんとなく」だったのですが、その「なんとなく」の背景には、対人関係上の悩みと その悩みを何とかしたいという気持ちがあったように思います。昔から、例え相手がどんなに良い人で、私に対して好意を示してくれている人であっても、関わっていると息苦しいような逃げたいような気持ちになってしまうことが多くありました。「客観的に見れば恵まれた対人関係なのに、なぜ私は対人関係に"悩み"を持っているのだろう」といつも思っていました。きっと、心理学を学べばその悩みを解決できるかもしれないという期待があったのだと思います。こうして大学に入り心理学を学びました。そして、自分が抱えてきた悩みの原因(の一つ)に対人不安があるのではないかということに気づき、卒業論文から対人不安をテーマに研究を始めました。
現在の研究
対人不安者の対人関係がうまくいかない原因の一つとして、対人的な葛藤や加害などの他者との関係が悪化した・しそうな場面での不適切な対処が挙げられます。そして、不適切な対処を行った結果、関係の修復ができないのではないかという懸念を感じることに注目しています。不適切な対処にもいろいろありますが、対人不安者は他者の否定感情に敏感で、拒否を回避したいという欲求が高いので、ちょっとした加害で謝りすぎて相手を引かせてしまったり、気にしすぎて雰囲気を悪くしてしまったりなど、嫌われたくないからこその不適切な対処を行ってしまうのではないかと予測しています。この考えに基づき、対人不安者が他者から拒否されたときにどのような反応をするのか検討しています。具体的には、主に場面想定法を用いた質問紙調査によって、コミュニケーション相手(友人等)に否定感情(怒り等)を抱かせてしまう場面の想定を求めて、そのときの相手の感情に対する解釈や自身に生じる感情、行動などを測定しています。
また同時に、対人不安者について検討する上で、自己愛にも注目しています。かねてから、対人不安(対人恐怖)の背景には自己愛の問題があると指摘されています。しかし、すべての対人不安者が自己愛の問題を持っているわけではなく、対人不安者の中に自己愛の問題を持つ者(過敏型自己愛者)と持たない者(純粋な対人不安者)の2タイプが存在しています。そこで、この2タイプの対人不安者を分離・比較しながら、研究を進めています。
現在までの研究では、対人不安者は他者から拒否された後(例え相手の機嫌が直っていそうでも)相手が怒り感情を抱いていると解釈しやすく、落ち込んでしまいやすいことが明らかになりました。加えて対処行動については、過敏型自己愛者は必死に謝り、対人不安者はびくびくして最悪逃げ出してしまうということが明らかになりました。今後はこのような行動がその後の対人関係に与える影響を検討する予定です。
今後の課題
現在のところはまだ研究に十分反映できていないのですが、私の研究は「対人不安者は対人関係を悪くしないため・よくするために、本人なりにがんばっているんだ」という考えを前提にしています。嫌われたままでいたくないからがんばって謝るし、これ以上嫌われたくないから逃げ出すのです。ただ、残念ながらその対処が過剰であったり的外れであったりするために、努力が空回りしてしまい、結果的に関係が気まずくなったり疎遠になったりしてしまうのだと思います。そのように考えていますので、対人不安者は「対処行動がダメだから、全くもってダメ」なわけでなく、「人一倍がんばっているのだから、その頑張りを適切な方向に向ければ、人一倍(は欲張りすぎかもしれませんが、せめて人並みには)よい人間関係が築けるはず」という期待を持ちつつ研究を行っています。その実現に、研究結果をどのように役立てていくかということが最も大きな課題です。
最後に、このような貴重な機会をくださった日本パーソナリティ心理学会関係者のみなさまと、ここまで読んでくださったみなさまに、感謝申し上げます。精進いたしますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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