若手研究者研究紹介15:
岡田 涼(日本障害者リハビリテーション協会・中京大学現代社会学部)

 

 第15回は、若手研究者の岡田涼先生にご自身の研究をご紹介いただきます。岡田さんは日本障害者リハビリテーション協会・中京大学(現代社会学部)に所属されております。ここでは岡田さんが精力的に研究されている「学習場面と友人関係場面における動機づけの役割に関する研究 」について、研究のきっかけや現在の研究内容、今後の展望などについてご説明いただきました。


学習場面と友人関係場面における動機づけの役割に関する研究

日本障害者リハビリテーション協会・中京大学現代社会学部
岡田 涼

研究のきっかけ
 私は動機づけ研究といわれる領域で研究を進めていますが、動機づけを研究テーマに選んだのは、人が“なぜ”それをするのかという点に興味があったからです。例えば、同じように勉強をしていても、人によって勉強する理由は違います。そういった理由の違いは、心理学の概念では動機づけの違いとして考えることができるということを知り、動機づけを研究テーマに選びました。研究テーマを考える1つのきっかけになった出来事が学部生の頃にありました。ある時、私は単なる興味から楽典(音楽の理論書)を読んでいたのですが、1人の友人がなぜそんなものを読んでいるのかと尋ねてきました。私はただ面白いからだと答えたのですが、なかなか納得してもらえませんでした。あまり納得してもらえないので、冗談で“音大に転学しようと思っている”と言うと、むしろそっちの方を信じたくらいです。どうも彼にとっては、“面白いから”というのは音楽の理論書を読む理由にはならなかったようです。そういう行動の理由の違いがあるのは面白いなと思っていたときに、学部の授業で内発的動機づけという概念に出会って、“あ、これだ”と腑に落ちた覚えがあります。

現在の研究
 現在の研究内容としては、学習と友人関係という2つの領域で動機づけの役割を考えています。学習面での動機づけに関しては多くの理論がありますが、その中で自己決定理論という理論を使って、動機づけの違いが学業達成や学習活動にどのような影響を及ぼすかを調べています。全般的には、興味や好奇心による動機づけ、いわゆる内発的動機づけや、学習に個人的な価値を見出して取り組むような動機づけが促進的な働きをすることがわかっています。
 友人関係面での動機づけは、これまであまり多くの研究が行われてきた領域ではありません。ですので、メインテーマでありながら自分でも説明に困ってしまうことがあります。ですが、友人関係を含めた対人関係についても、やはり動機づけの違いというのはみられますし、その影響力は決して小さくないと思います。例えば、大学の仲間同士で飲み会があるとします。多くの人は単純に誰かとお酒を飲んで騒ぐのが楽しいと思って参加するのだと思いますが、中には顔を出しておかないと悪いなと思って参加する人もいます。仲間や友人と関わろうとする行動の背景にも様々な動機づけがあり得るのです。これまで調べた部分では、学習面と同じように友人に対する興味や関係に価値を見出して関わろうとする動機づけが、ポジティブな友人関係の形成や維持に影響することが示されました。例えば、興味や価値から関わろうとする動機づけは、向社会的行動や自己開示といった積極的な行動あるいは友人関係の満足感を高めるようです。他にも学校適応や自尊感情といった精神的健康の面にも動機づけの影響がみられます。

今後の展望
 今後の研究の展望ですが、まず学習面での動機づけについては、もう少し変動性を考慮した捉え方をしたいと思っています。多くの理論や研究では、安定した動機づけスタイルのようなものに焦点があてられることが多かったように思います。私自身の研究もその流れに位置づくものでした。しかし、動機づけには日によって高まったり低まったりと変動する部分があります。動機づけの安定した部分と、刻々と変化する不安定な部分を分けて考える必要があります。例えば、学習方略をたくさんもっている人は、日常的なレベルで動機づけが変動しにくいかもしれません。そういった考えのもとに少しずつデータを集め始めているところです。  
  友人関係面での動機づけについては、行動指標との関連を明らかにすることが最大の課題だと思っています。これまでは質問紙調査がほとんどだったので、動機づけが具体的にどのような行動として現れるのかについては、まだあまり調べられていません。以前に、質問紙で動機づけを測定し、その人たちの実際の相互作用中の笑顔や注視をカウントしてみたこともありますが、まだ十分なデータを集められていないのが現状です。引き続き行動観察を行いながら、動機づけ概念によって説明できる具体的な行動を明らかにしていきたいと思っています。
 私はまだまだ研究修行中の身です。これからも多くの方からご指導をいただきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願い致します。また、研究紹介の場を与えてくださった学会関係者の方々にお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。        

 
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