若手研究者研究紹介16:
竹内一真(京都大学大学院教育学研究科)

 

 第16回は、竹内一真先生にご自身の研究をご紹介いただきます。竹内さんは京都大学大学院(教育学研究科)に在学中で、「伝統芸能の技能の継承」という非常にユニークなテーマで研究を進められています。研究のきっかけや現在までの研究成果、今後の展望などについてご説明いただきました。


伝統芸能の師匠を対象とした世代間の関係の中での自己の意味づけと次世代への継承

京都大学大学院教育学研究科
竹内一真

今、メインで取り組んでいる研究テーマ
 伝統芸能の技能伝承というテーマで研究を進めています。個人的に惹かれるのは「学校」とは異なる文脈の中で、どのように「教え手」は自らの経験を伝えているのかという点です。伝統芸能に見られる伝統的な教授スタイルは、何も教えず、ただ真似をさせるだけという意味で「教えない」教育と呼ばれます。しかし、本当に「教え手」は何も教えないのか。研究者が単に「教えない」という枠を作っているだけで、教え手は「こうなってほしい」という次の世代への願いや希望というのをやはり持っていて、それを伝えようとしているのではないか。このような次世代への願いや希望を明らかにするという問題意識を持って研究に取り組んでいます。

そのテーマに取り組もうとしたきっかけ
 以前、別の大学院で、モーションキャプチャと呼ばれる技術を使って、優れた舞踊家の分析およびアーカイブという作業をやっていました。このとき、舞踊家の方が「今はひざが悪く動けない動作もあるが、教える際にはここは真似をしないようにと言っている」ということをおっしゃっていて、大切なのは「今舞踊家が何を舞っているか」ではなく、「何を伝えようとしているのか」ということなのではないかと思いました。これが大きなきっかけで、そこから心理学の先行研究を探っていくと「学習者がどのように学ぶのか」という学習者に焦点を当てた研究はあっても、教え手が次世代に何を伝えようとしているのか、という研究は非常に少ないということがわかりました。このようにして、徐々に技能伝承というテーマに取り組むようになっていきました。

具体的にどんな方法で研究しているのか
 研究手法はライフストーリーインタビューと参与観察を用いています。どうしても伝統芸能の教え手はあまり積極的に言語的に指示を与えません。そのため参与観察では、どこに、どのようなこだわりを持って伝えているのかということを明らかにします。そして、そのこだわりはどのような発達のプロセスを経て獲得したのか、さらに、その技能を次世代にどのように受け継いでほしいのかということをライフストーリーインタビューによって明らかにします。このように、参与観察とライフストーリーインタビューという二つの手法をミックスすることで伝統芸能の教え手が何を次世代に伝えようとしているのかということを明らかにします。          

自分の研究を通して得られた知見・今後の展望
 大きく分けて二つの知見があります。一つは、伝承者が次の世代に伝えることというのは自らの人生と密接な関係があるということです。教えるなかには厳しく伝えることと、そうでないことというのがあります。厳しく伝えることには当事者の過去が豊富に語られますし、一方、そうでない場合は経験があまり語られません。つまり、教え手は教えるということを通じて、間接的に自らの経験を語っていると言えます。このように、語りと伝えるということの関係性を明らかにしたというのが一点です。  もう一点は、伝承者が本当に伝えたいことは実際の教授場面、つまり稽古だけで伝えるのではなく、様々な場面を共有することで理解させるということです。これまでも、参加を通じて学ぶという学習モデルは90年代を前後して非常に研究されてきましたが、参加を通じて教え手は何を伝えたいのかという教え手の視点に立った研究というのはそれほどなかったので、その点が目新しいところというところでしょうか。  今後の展望としては芸能だけでなく、工芸などを対象として広げていきたく思っています。

 
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