若手研究者研究紹介17:
橋本 空(江戸川大学社会学部人間心理学科)

 

 第17回は,橋本 空先生にご自身の研究をご紹介いただきます。橋本先生は現在,江戸川大学社会学部人間心理学科に講師として所属されています。研究内容,研究を始められたきっかけ,今後の展望などについてご説明いただきました。


慢性疾患患者を対象にした病気認知の研究

江戸川大学社会学部人間心理学科
橋本 空

1.先生が現在取り組まれている研究はどのようなものですか?
 現在は慢性疾患患者を対象にした病気認知の研究を行っております。「病気(illness)」と類似した言葉に「疾病(disease)」がありますが、前者は患者の実感など、症状に対する主観的な判断に基づく「病気」を意味するのに対し、後者は医師の診断などの客観的な判断に基づく「疾病」を意味します。近年、ライフスタイルの変化や医療技術の発展を背景として、糖尿病、高血圧、冠動脈性疾患、腎不全、がんなど様々な慢性疾患のリスクが高まっていると言われています。感染症のような急性疾患とは異なり、慢性疾患では本人の行動のあり方によって経過が大きく左右されます。特に、長期間付き合うことになる医療従事者との良好な関係の上に成り立つ主体的な病気対処行動ができること(アドヒアランスが良好な状態)が重要になってきます。そうした中、患者一人ひとりの行動の基盤となる「病気」への考え方やイメージ、すなわち病気認知を適切に把握し、そこから得た情報を患者さんのアドヒアランスの向上、ひいては疾患の予防や悪化防止に生かす研究や実践が注目されつつあります。 私は健康心理学を専門とする立場から、疾患の進行レベルなどだけではなく、パーソナリティや感情表現などの心理的要因、周囲からのソーシャルサポートなどの社会的要因がどのように患者の病気認知に影響を与えるかについて研究を進めています。

2.その研究を始められたきっかけは?
 大学院生のころから攻撃性と健康の関連性、特にストレス状況下における怒りや敵意などの制御に関心をもっておりました。そうした中、慢性疾患患者の病気認知に関する研究を知りました。直接のきっかけは、私が勤務する江戸川大学にて2010年に開催した日本健康心理学会第24回大会に、イギリスより講演のためにお招きしたJohn Weinman先生との出会いでした。大会の委員であったこともあり、Weinman先生から研究のお話を伺う機会が多くあり、大変関心をもちました。慢性疾患患者には治療や日々の生活に関して多くの行動上の制限があります。さらには治療の効果が実感しにくかったり、回復が望めずあくまで現状維持のための処置であったりする場合もあります。そうした特有のストレス状況下で、慢性疾患患者がどのような認知や感情をもつことが効果的な治療につながっていくのかを検討していくことは、自分の研究を発展させる方向性としても、社会的な役割としても大きな意義があると考えました。

3.これからのご研究の展望をお聞かせください
 日本国内の患者を対象とした調査を進めていく一方で、Weinman先生からのご提案がきっかけで現在イギリス、オランダ、ドイツ、スウェーデンとの国際比較研究のプロジェクトに参加させていただいたており、そちらの調査実施の準備も進めております。その中で、医療をとりまく環境や文化の違いなどによる影響についても検討できればと考えています。病気認知に関しては欧州において研究が進んでいるため、学ぶことが多く、その中で得られた知見は日本国内の研究にも生かしていきたいと考えています。          

4.これから研究を始めようとしている学生の皆さんに一言
 私自身がまだまだ未熟者であるため偉そうなことは何も言えないのですが、自分自身の実感をふまえてお伝えできることとしては、行動力と人間関係を大切にすることだと思います。論文などを読み、ある程度研究テーマが絞られてくると、疑問点や不明な点が出てくると思います。そんなときには国内外を問わず、そのテーマをすでに研究されている先生にコンタクトを取り、測定方法や分析方法などについて質問をしてみるなど、思い切って動いてみる行動力が大切だと思います。また、それに関連して広がっていく人間関係が、自身の研究内容に幅や深さをもたせる大きな助けになることも多くあると思います。

 
Homeへ戻る 前のページへ戻る
Copyright 日本パーソナリティ心理学会