若手研究者研究紹介27:
川本静香(立命館大学大学院文学研究科)
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第27回は、若手研究者の川本静香先生にご自身の研究をご紹介いただきます。川本先生は立命館大学大学院文学研究科に所属され、うつ病アナログ群についてのご研究をされています。ここでは、現在の研究を始めたきっかけや現在の研究の状況、今後の展望についてご説明いただきました。 |
健康と病いの境界―うつ病アナログ群についての研究
立命館大学大学院文学研究科
川本静香
現在の研究を始めたきっかけ
私は昔から「ちょっと変わった子だね」と言われることが多かったのですが、そう言われるうちに、「普通」と「変わっている」は何が違うのだろうと疑問に思うようになりました。そうした疑問は、修士課程で臨床心理学を学ぶようになってからより具体的になり、「健康」と「精神疾患」の違いってなんだろうに変わっていきました。
精神疾患といっても、うつ病や統合失調症、パーソナリティ障害など様々な病気があります。その中でも私が特に興味を持ったのは、うつ病でした。うつ病は心の風邪と言われるほど、誰でもなる可能性があると言われています。誰でも落ち込んだり、夜眠れなくなったりすることはありますが、それが「病い」と呼ばれるほどになったものと、そうでないものとの間にどんな違いがあるのか、詳しく研究してみたいと思い、この分野の研究を志すようになりました。
現在の研究の状況
うつ病と、病いとまではいかない抑うつの境界設定の問題は、これまで「抑うつの連続性議論」として研究されてきました。この議論は、抑うつには健康と病いを分ける明確な境界があるという立場(非連続説派:Depue & Monroe, 1978; Golin & Hartz, 1979など)と,病いとしての抑うつ状態と健康な状態というものには明確な境界線がないという立場(連続説派: Vredenburg, Flett & Krames, 1993; Flett, Vredenburg & Krames, 1997など)の2つの立場に別れ、長年にわたって議論されてきました。現在では連続説派がやや優勢に立っていますが、明確な答えは未だ出されていません。
また、連続説派が優勢に立ったことで、健康な人の中にも、うつ病に類似した特徴を持つ人々がいることが明らかになりました。彼らは、うつ病アナログ群と呼ばれています。アナログとは、「類似した」という意味で、ある精神疾患に似た特徴を持つ健常者のことをアナログ群と呼称することがあります。うつ病研究では、こうしたアナログ群を対象にした研究が多く行われているのですが、アナログ群はどのような点がうつ病患者と類似しているのか、または類似していない点があるとすれば、それはどのような点なのかについては、十分に検討されていません。そこで、うつ病と診断された方と、うつ病の診断のない一般の大学生を対象として、うつ病アナログ群の特徴を明らかにできないかと考え、研究を行いました。結果としては、重症度レベルで言えば、一般の大学生であっても中等症および重症の抑うつ状態であれば、うつ病患者の抑うつ状態と類似性がみられ、症状で言えば、「自殺念慮」があるかどうかも、大きな特徴であることが明らかになりました。
今後の展望
これまでの研究から、健常な方の中にもうつ病患者と類似した抑うつ状態を持つ人がいることが明らかになりました。今後は、そうした方に対する予防的アプローチや、早期発見、早期受診を促すような方略を検討する必要があります。早期発見、早期受診が重要であると指摘される一方で、心療内科や精神科を受診することに抵抗がある人も少なくありません。そうした方の中には、うつ病治療で使われる薬に対する恐怖心や不安感が強い方もおられます。今後は、そうした恐怖心や不安感の要因の検討を進めるとともに、うつ病を防ぐためのセルフケアのあり方についても検討していきたいと考えています。
最後になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださいました関係者の皆様と、ここまで読んでくださった皆様に心から感謝申し上げます。
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