若手研究者研究紹介35:
下司 忠大(早稲田大学大学院文学研究科)

 

 第35回は,若手研究者の下司忠大先生にご自身の研究をご紹介いただきます。下司先生は現在,早稲田大学大学院文学研究科に所属され,Dark TriadやDark Tetradについて研究されています。ここでは,研究をはじめたきっかけや現在の研究の状況,今後の研究の展望についてご説明いただきました。


Dark Triad/Dark Tetradに関する研究

早稲田大学大学院文学研究科
下司 忠大

現在の研究を始めたきっかけ
  私はどちらかと言えば自尊心が低く,様々な場面で萎縮してしまうことが多くあります。その反動からか,私は昔から「お調子者」や「無謀で豪快な人」,「根拠の無い自信のある人」をテレビ番組や小説・漫画などで見るのが好きでした。これに近いパーソナリティ特性としては,自己愛傾向を挙げることができます。自己愛傾向は非現実的なほどに自尊心を高く維持・調整する傾向性を表したもので,誇大性や特権意識,注目・賞賛欲求などの特徴があります。
  学部3年生の冬に卒論のテーマを探していた時,どうせやるなら自分が探求して楽しいと思えるものをテーマにしようと思い,自己愛傾向を選びました。大学院に入ると,海外では自己愛傾向と,それに類似した特性であるマキャベリアニズムとサイコパシー傾向をまとめて研究対象とする流れがあることを指導教員の小塩真司先生に教えていただきました。マキャベリアニズムは16世紀のイタリアの政治思想家であるニッコロ・マキャヴェッリの著作に描かれた思想を表したもので,「人間は基本的に残酷で邪悪なものである」や「人を支配するためならば,非道徳的な手段を用いても構わない」といった考え方です。サイコパシー傾向はいくつかの心理的特徴のまとまりを表したもので,衝動性や共感性・罪悪感の欠如,表面的な魅力などを特徴としています。マキャベリアニズム,サイコパシー傾向のどちらも,おとなしく遠慮がちな性格の私には不思議であるとともに魅力的に感じ,自分の研究テーマに選びました。
  これら3特性はいずれも他人の気持ちを顧みず,冷淡で,周囲に悪影響をおよぼすことが多いと考えられるダークな特性であることから,Dark Triadと呼ばれています。それでは,Dark Triadのそれぞれはどのような点が異なっており,社会にどのような影響をおよぼすのでしょうか。このような興味・関心から,Dark Triadに関する研究を始めることを決心しました。

現在の研究の状況について
  修士論文では海外で作成された個人のDark Triad傾向を測定する尺度を邦訳し,その尺度を用いてDark Triadが対人行動におよぼす影響をいくつか研究しました。その結果から,Dark Triadの各特性は一様に同じような対人行動を促進させるだけではなく,それぞれが異なった対人行動も促進させることが示されました。今後の研究では,なぜそのような違いが生じるのか,また,その違いがDark Triadの各特性の適応・不適応にどのような影響をおよぼすのかを検討していく必要があると考えております。
  「ダークな特性」に含まれる特性はDark Triadの3特性しかないのでしょうか。近年ではDark Triadにサディズムを加え,これら4特性をDark Tetradと呼び研究する動きもあります。サディズムとは他人が嫌がるようなことをしたり,他人が嫌がっている姿を見ることで快感情を感じるような傾向性を表したものです。私はこのDark Tetradに関する研究にも関心があり,海外で作成された個人のサディズム傾向を測定する尺度を邦訳しました。

今後の研究について
  Dark TriadやDark Tetradのそれぞれの共通点や相違点について,まだまだ実証的な知見を蓄積する必要があると考えています。この知見を蓄積することによって,Dark Triad/Dark Tetradの各特性の適応・不適応や,社会的影響について考えていくことができると考えています。Dark Triad/Dark Tetradはどのような場面で良い影響をおよぼし,どのような場面で悪影響をおよぼすのでしょうか。また,例えば,マキャベリアニズムのみが良い影響をおよぼすような場面はあるでしょうか。その反対に,マキャベリアニズムのみが深刻な悪影響をおよぼすような場面はあるのでしょうか。Dark Triad/Dark Tetradの共通点や相違点を踏まえた上で,このような研究を将来的には行なっていきたいと考えております。
  Dark Triad/Dark Tetradがどのように発達してきたのかという点についても研究をしていきたいと考えております。現在までのところDark Triad/Dark Tetradの共通基盤としては冷淡さが有力であると考えられていますが,冷淡さが発達してからそれぞれの特性へと分岐していくのか,元々それぞれの特性が別個に発達していくのか,といった点について関心があります。

最後に
  この度は,まだまだ未熟である私にこのような貴重なご機会をいただき,誠にありがとうございます。パーソナリティ心理学会関係者の皆様に,心より深く御礼申し上げます。



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