(浦田 悠著,2013年,京都大学学術出版会)
目次
序章 人生の意味への問い
第Ⅰ部 人生の意味の哲学と心理学
1章 人生の意味の哲学
2章 人生の意味の心理学
第Ⅱ部 人生の意味を心理学する
3章 人生の意味の喪失 ――実存的空虚を測定する
4章 人生の意味への問い ――問いの諸相
5章 人生の意味の追求と実現 ――意味の内容と構造を掘り下げる
第Ⅲ部 人生の意味のモデル構成とその応用
6章 人生の意味のモデルの構成 ――哲学と心理学の知見の融合
7章 意味システム・アプローチの検討 ――人生の意味の構造の分析
終章 人生の意味のさらなる探究のために
人生とは何なのか,そこには一体どのような意味があるのだろうか,そしてそもそもそこに意味などあるのだろうか。このような「問い」は,何気なく暮らす日常生活の中では,もしかしたらあまり目を向けることはない類のものかもしれない。しかし誰もが様々なライフイベントを通して,特に生老病死に直面した際などに,多かれ少なかれこういった「問い」を意識した経験があるのではないだろうか。本書はそういった「人生の意味への問い」に対しての心理学的研究をまとめた専門書である。
このような「人生の意味への問い」は,狭義の「心理学」だけでなく,非常に哲学的であるとともに,文学的,宗教的な性質をもち,さまざまな分野と密接に関連している。実際,本書もトルストイの言葉から始まり,1章で哲学的な知見を整理し,2章で心理学のさまざまな研究についてまとめるところから議論を進めている。そして3章以降は,具体的な七つの調査結果を基に,「実存的空虚」(3章)や,人生の意味への問いがどのように問われるのかについて(4章),人が人生の意味にいかに答えているかについて(5章)といった問題が,それぞれ論じられている。青年期を対象とした調査が中心であるが,量的な手法も質的な手法も用いてアプローチされており,興味深い知見が紹介されている。
また,6章ではそれらの実証的な調査の結果も踏まえつつ,これまでの哲学や心理学の理論的枠組みを統合することを目指して,人生の意味を入れ子上の「場所(トポス)モデル」を用いて説明することを試みている。このモデルは,7章において様々な事例をもとにした検討がなされており,一定の可能性が示されている。さらに終章では,得られた知見とその意義を整理し,展開についても触れられている。このような問いを探求することが,単に知的な好奇心を満たすだけでなく,著者も指摘するように「生き方や人生観の様々な可能性と,幸福や意味の(再)発見につながる道を提示していくこと」にうまく繋がって行けば,本書で行われているような研究が持つ位置づけもさらに変わっていくのではないだろうか。そういう意味でも,本書は人生の意味や生・死といったキーワードに関心を持つ研究者だけでなく,自己やアイデンティティ,ポジティブ心理学など,さまざまな領域・キーワードに関心を持つ人にとって,非常に有益な示唆を与えてくれる。
また,本編とは別に,五つの話題がトピックとして挿入されており,著名人が人生の意味について語った言葉や,「無常観」という日本の思想・文化と密接に関わる概念などが扱われている。短いトピックとは言え,いろいろなことを考えさせられる内容となっており,こちらも非常に興味深い。(文責:並川 努)
(2014/5/9)