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講演要旨
自然科学としての近代西洋医学の医学・医療モデルは、ニュートンの力学的自然科学を基盤にして成 り立つbiomedical
model(生物医学的)である。「科学的である」であるためには客観性、普遍性、再現性が求められる。そのためには、病気の発症や再現の原因となる多様な要因の関係性、個別性、心理、社会、人間性といった曖昧な要素を無視するか切り捨てなければならない。 Engel(1977)は多元系の作業仮説としてbiopsychosocial
modelを提唱しbiomedical
modelの限界と問題点を指摘した。彼は糖尿病と精神分裂病という代表的な身体疾患と精神疾患を例にあげ、biomedical
modelに基づく要素還元論的アプローチでは両疾患の病態の理解も対処も不能であることを示した。システムズアプローチの考え方を基盤にした全体としてのシステムや各因子間の相互作用や関係性を重視した概念である。しかし、心身医学はbiomedical
modelという自然科学的な方法論の有効なモデルに、心理因子と社会因子を加えたものに過ぎなくなった。従来の心身医学の過ちは還元論を乗り越えようとしたにもかかわらず還元論を受け入れてしまった。心は要素還元論の最先端である分子生物学による分子モデルにと置き換わりつつある。Engelの言いたかったのは心身相関という因果論的思考ではなく、全体性との相関、関係性の認識である。
医学はますます細分化され要素還元的な方向に突き進んでいる。医学と医療の矛盾は不幸この上ない。医療現場ではより人間的要因が必要になる。「人間的ファクター」は全人的医療を行う上で最も重要な要因である。医学と医療における「人間的ファクター」について具体的に述べてみたい。
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