インタビュー企画1:杉山理事長(後半)

――――もう一つお伺いしたいのですが、明確な理想というかヴィジョンが学問の発展を促すことがあると思います。もちろん、良い意味で理想が裏切られて、思っていないところから面白い研究が出てくるということはあるとは思うのですが、先生の中で、こういうふうな研究が面白い、こういう研究が育つとパーソナリティ心理学が良くなる、あるいは研究が活発化するという理想やイメージはありますか?

今4つくらい考えているんですけどね。

■ 個人のアイデアを大切に

 第1に、研究は、個人の頭の中で創発されるものだし、アイデアこそが勝負だと思うんです。そういう意味で結論から先に言えば、例えば、科研費で言えば、特定研究ではなくて、一般研究にあたる個人の研究テーマを大事にするというのが、学会の基本的スタンスだろうと思うんです。テーマが変ではないかと議論をすることがあったとしても、何の研究でも、まずは個人の頭の中にある研究を大事にすることが大切だろうと思います。  私の例で言うと、以前、利他性・愛他性の研究をやっていたのですが、ここ暫くの間、自分のテーマがつまらなくなり、止めていたのですが、最近の論文を読んでみると、10年前に比べて進歩している。それは学問の怖さだなと思っています。愛他性との関連でいうと、例えば、人は裁判官であり、人生を法廷に例えて、公正や正義について論じているワイナーのSocial Motivatioの本(2006/2007)が出ていますよね?以前は人間の行動は、利己的だといっていたのに対して、むしろ公平・公正の間で葛藤しているという人間観や方向性に変わってきているのかなぁと思います。そういう意味で、どのようなテーマでも地道にテーマを追っていくというのが第1なのかなぁ、そういう個々のテーマを大事にしたいというのが第1点です。

■ 最新の研究についていく

 第2に、私は新しい物好きといわれることがよくあります。私はほめられていると思っているんですけど・・・。それぞれの分野の最先端、研究の到達点、あるいは論争されているところを絶えず追っていく必要があるんじゃないかなぁとおもっています。
 例えば、最近、認知論が非常に強いけれども、その認知論の中で、無意識とか自動処理とかが研究テーマになっていますよね。IATとかプライミングとかね。あれの影響はパーソナリティ研究にもあると思います。

―――どういう意味ですか?

 だって、無意識というのは、かつては、フロイトを前提に考えていたけど、最近は、脳科学とかフィードバックの理論が背景になっていますよね。フロイドを引き合いに出さずに、無意識とか自動処理とかが研究対象になるとは私は思っていなかった。で、実際、私は自分でIATを利用した研究をやってみたりして、去年の日心のワークショップで話題提供したりしています。最先端の理論で昔の研究成果を分析し直すという視点で探してみると、投影(映)法性格検査を、錯誤帰属という枠組みで捉えて感情プライミングで分析する(Payne, et. Al., 2005)を読んでいると、一歩進んでいるかなぁとおもいます。つまり、診断プロセスが客観的に捉えられていない現象に対して、明確な仮説から出発して、客観データとしての反応があり、解釈プロセスが客観化できれば一歩進んだことになるかなぁという意味です。

    ―――なるほど。現象が明らかであっても、適切な検証手段がなかったものが、他の分野の研究が進歩すれば、その知見や概念を転用することで、より検証可能なものになっていくことがある。だから、最先端の研究から離れるのは問題だということですね。

■ 国際化

 3番目が国際化ということです。日本パーソナリティ心理学会では、国際交流委員会というのを新たに作りました。予定されているのは、ARP(Association for Research in Personality)や、EAPP(European Association of Personality Psychology)との交流であったり、ARPのウェブ上で、日本パーソナリティ心理学会の情報を発信する準備が進んでいます。
 これから先は、現時点では、私の頭の中にあるだけなのですが、大会時の大会優秀発表賞か、まだありませんが機関紙の論文賞などの受賞者に、国際学会での発表の補助をすることで、若い院生などが国際学会で発表するチャンスを広げていくことなどが大事かなぁと思っています。

■ 妥当性の標準化・適正化や方法論

 4番目は、研究法ですね。尺度構成とか、性格尺度の標準化、妥当性概念というのは、混乱してますよね。アルファ係数だけ取れば良いという人もいれば、既存の尺度と相関係数が高ければ良いという人などいろいろいますよね。相関係数が高ければいいのなら、新しい尺度を作る意味がない。低かったら何をやったんだかわかんないとかね。この辺の妥当性概念、あるいは、最近の新しい統計概念や分析手法もありますね。この現状で、何が問題となっているのかなど、場合によっては、日本テスト学会との連携のシンポジウムとかを開いて、例えば、方法論の最先端や課題について議論する場を提供するのが学会の責任かなと思います。
 もう一つ気になっているのは、最近、定性的データとか質的データとかを取ることが多いですよね。たとえば、その自由記述などの集計とかを見ているとレトロじゃないのかと素朴に思うことがあります。例えば、データもないのに語りすぎていると思うときがあって、なぜ、広い意味でのデータマイニングソフトを使わないのだろうかと思うんです。もちろんデータマイニングソフトにかければ自動的に結論が出るわけではなくて、前処理とかいろんな問題があるし、もちろん出現率の相関が高ければいいというものでもなくて、どこになにを発見のチャンスと考えるかというのは、研究者の方で決めなければならないことです(大澤2003)。しかし、データマイニング系のソフトにかけることによって、仮説とデータと分析プロセスが客観化できる。そうしないと、自由記述のコーディングで「私がみたら、こういうふうになりました。どうでしょうか?」といわれて、「それがおかしいんじゃないか」という議論はできないですよね? 基のデータがなく、解釈のプロセスが明示されてないんだもの。定性データの分析の仕方、方法論はもうちょっと客観化ができないのかなと思っています。

―――最後に、パーソナリティ研究の面白さ・やりがいはどこにあると思いますか?

   個人的にはパーソナリティ研究から研究をスタートしたわけではなくて、学習心理学からスタートしたんです。それで、その両方をつなぐパーソナリティ形成に興味があるんです。それに比べて、私は臨床が得意じゃなかった。 大学の助手の後に、ある国立の研究所にいたんです。そこでクライエントの子どもが目の前に来て、にこっとするんですよね。すると私もにこっとしてはにかむんですよね。なんというか仕事にならないんですよ(笑)。だから、オブリゲーション無しに一対一で遊ぶのは好きなんだけど、セラピーとかカウンセリングとかっていうことになると無理なんですよね(笑)。まあ、今思うと、クライエントのアセスメントや治療方針の決定以前に、治療の場に立つ以前の知識や技量の不足も大きかったと思っていますが。 パーソナリティ研究は臨床や社会・対人関係との接点はありますが、自由なテーマなので、人に限りなく興味があれば、誰に対してもパーソナリティ研究はお勧めのテーマだと考えています。

―――人と接して、人と向き合う仕事ってことでしょうかね?

 しかも、できればそれを商売(外的な成果を急かされずに)しないで、研究できたら最高だな(笑)。




 

 
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