インタビュー企画2:小堀修(後半)

■ イギリスでの研究環境

―――質問紙となるとついつい反応してしまいます(笑)が,興味深い研究内容ですね。ところで,Salkovskis教授は,OCDの領域では有名な方ですが,周囲の研究者も小堀さんと似たような研究を行っているのでしょうか。研究環境なども含めて、どんな感じか聞かせてください

 Salkovskisと一緒に研究をしているのは3人だけです。まず,臨床心理士養成コースの大学院生が,同じくOCDの研究をしています。もう1人は,Dr Nicole Tangという僕と同世代の研究者です。彼女は疼痛や不眠をテーマにポスドクをしています。
 あとは,フルタイムの秘書が1人と,10人近いアシスタントが僕らの研究を支えています。先ほど出たように,質問紙にコメントをしてくれるセラピストや患者もいます。こちらでは、教授も学生も患者も、全てファーストネームで呼び合っています。うちの教授の人柄かもしれませんが、笑いをとることも日課ですね。

―――3人だけなのですか。もっと多いのかと思っていました。秘書やアシスタントもいるなど,ずいぶん日本とは違うようですが,イギリスでは他の大学も似たような環境なのでしょうか。また,研究環境だけでなく,研究者たちの研究に対する態度や意識,意欲や取り組み方についても,日本との違いを特に感じたものはありますか。

 研究環境は大学や学部ごとに大きくことなります。僕のいるところは,設備やスタッフなどかなり恵まれていますが,同じ精神医学研究所でも,オフィスにプリンタやエアコンがない悲惨なユニットもあります。
 イギリスでは,学部ごとにインパクトファクターを計算して,国から予算が割り振られるそうです。この他に,研究者がそれぞれ研究費を申請するため,予算が大きく変わってくるわけです。
 認知行動療法の心理学者に限っていえば,リサーチャーとセラピストの交流が盛んですね。リサーチャーは実践に役立つ知見を提供しようとするし,セラピストは研究の質を高めるために協力します。その一方で,研究と実践の分業体制がはっきりしすぎていて,40歳以下の世代では,研究・実践のどちらにも専念している人は少ないと思います。
 最後に,イギリスはどんな手続きにも時間のかかる国ですが,これは研究を開始する手続きにも当てはまります。臨床研究をする場合,全ての患者はNHS (National Health Service) からリクルートされるため,どの大学・病院で研究をしても,倫理委員会に提出する書類は,NHSの基準で統一されているわけです。この書類は論文の何倍にも相当するくらい膨大で,最初の半年はペーパーワークに費やしていました。

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―――ずいぶん日本と研究環境が異なっていますね。予算に関しては,今後日本もそのような方向になっていくのでしょうか。競争という点では良いこととは思うのですが,弊害もありそうですね。
 リサーチャーとセラピストの交流は重要なことだと思います。小堀さんの元指導教官である丹野義彦先生も,イギリスは基礎と臨床のインターフェイスが進んでいるとおっしゃっていましたね。今後,日本でも両者の交流がもっと盛んになればと思います。
 患者を対象にした研究の手続きは,日本よりもかなり厳密なんですね。倫理的な問題に関しては,日本でも意識が高まってきているとは思います。 日本でも,「事例に学ぶ心理学者のための研究倫理」が本学会から出版されましたね。


■ 終りに…わたしもロンドンに行こう!

―――そろそろ時間ですかね(時計を見ながら)。最後に,イギリスに研究と実践をしに行かれたことで良かったこと,考えたこと,感じたこと,そして読者の皆様に伝えたいことなどありましたら、ぜひともよろしくお願いします。

まず,読者のみなさん,遊びにきてください(お土産は要りません)! そして,研究をしながら,ロンドンで生活をしてみてください。観光では見えないものが見えてきます。 パブ,サッカー,ホームパーティ,ダンスクラブ,カラオキ,ミュージカル,美術館,古い建物,現代建築,世界中の言語と音楽と料理…五感を刺激するものがたくさんあります。学問,芸術,ビジネス,恋愛など,新しいことにチャレンジしようとする人々のエネルギーにも満ち溢れています。 日本人コミュニティも大きくて,日本語のフリーペーパーが5, 6種類も配布されています。何より,落ち込んだら僕の日本語カウンセリングも利用できますから(笑)。

―――サポートも万全,ということですね(笑)。読者の皆さんも,ぜひ海外へ!小堀さん,長々とありがとうございました。

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■ *…そして舞台裏へ…*

―――いやー,けっこう長くなったね。なんにせよ,これで無事に掲載できるよ。ところで,そっちの生活ってどう?ご飯とかはどうしてるの?あと,フットサルもやってるんだっけ?

 マイク切る必要ありますか?あ,そうですか。じゃあそのまま。
 食事は高いしそれほど美味しくないので,毎日サンドイッチとかパニーニを作って持っていきます。夜はなるべく和風の食事を作ってます。にしても物価が高すぎです。1ポンドが250円ですよ!物価は東京の2倍くらいだと思います。
 今はフットサルではなくて,精神医学研究所のフットボール部に所属して,毎週ゲームをしています。やっぱり西欧人は身体が大きいですね。
 ところでこのインタビュー,杉山先生の次が僕でいいんですかね?苦情がきたら,広報委員会で対応してくださいよ。あ!いつのまにか僕も広報委員に加わってるじゃないですか!

―――イギリスの食事って,噂通りなんだ…。食事もあの質で物価も高いとなると…うーむ。生活が大変そう。そうそう,このインタビューの内容に対する苦情は,連帯責任と言うことでよろしく!同じ広報委員だし(笑)。 それじゃ,今度は日本で再会しよう! interview02_3.jpg(17953 byte)

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注:イギリスでインタビューをしているような設定になっていますが,実際には,メールでのやりとりを元に構成されています。

 
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