インタビュー企画4:谷伊織(後半)


■ 困難

 ―――今の研究をやっていく中での難しさってどういうものがありますか?

 難しいところは,沢山あります。課題だらけです。今,何をしようとしているかというと・・・妥当性を検討しているわけですね。
 ビッグ・ファイブは5ですが,これ以外にも7だとか,8だとか,あるいは1などと色々考えられているわけです。その中で,5の良さを示したいわけです。5の方が他のモデルよりも良いと言いたいわけではなく,「なぜ,5がいいサイズなのか」という問いに答えたいわけです。どうすればそう言えるのか,その方法を考えるのが難しいです。

―――なるほど,その辺は今の研究,知見の中ではでどういうことがいえますか?

 今の考え方では,5でなくてもいいけど,5であるほうが使いやすいというぐらいのスタンスです。細かい話については省きますが,やはり,2には2のいいところがあって,7には7のいいところがあるわけです。
 あと,5因子モデルで作られている尺度は,1つではなく,日本では主に4つあって,子ども用なども含めるともう少しあります。おそらくユーザーはどの尺度を使っても同じ5因子が測れると期待して使うと思うんですけど,確認するとおそらくそれはそうではなさそうだという知見があります。
 だから,誰の5因子はどういうものであるのかとか,5因子とはなんであるかとか,そういうところに了解が必要なんです。そのための判断材料が作りたいんですが,それには相当沢山のデータからの根拠,分析が必要なので,多くの研究をしてそういうデータを集めています。ただ,どこまで集めればいいのかとか,きりがないなと悩んでいるところです。
 また,まだまだ力不足だなと思うところがあって,分析についても色んなやり方があるけど勉強できていないし,文献ももっと沢山読まなければならないけど,沢山ありすぎて読みきれていません。
 また,日本は欧米と比べて性格の研究者が少ないと思います。研究成果ももう少し蓄積されないといけないと思っていますし,成果をうまくまとめる必要性を感じています。

―――そうですよね。性格に特化したと言うか,専門的に性格のみを扱っている研究者は本当に少ないように思いますね。

 パーソナリティ心理学会の中でも「性格特性」というキーワードがメインになる研究はあまり多くないように思えます。

―――確かにそうですね。性格特性と何か他の変数を掛け合わせた研究が多いですね。

 性格そのものを研究しようとしている人は少ないように思いますね。

―――やはり,その捉え方の難しさと言うのがあるんでしょうか。

 テーマが広すぎるからやりたくないのかなぁ?なんでやりたくないんでしょうね。その辺分かったら教えて欲しいですね。

―――確かに難しいですよね。私もパーソナリティの講義を受けたとき,色んな研究者がいて,いろんな理論を構築しているわけですよね。そのなかで,共通している部分もあるけれど,共通していない部分も沢山ありすぎて,ちょっと視点を変えると見方がガラッと変わってしまう感じがありますよね。

 そうですね。そういうのが,難しいところなのかなと思います。みんな,興味はあると思うんですよ。性格はかなり日常的にも問題になる心理学のテーマだと思いますが,なんで,性格に直接的に向かわずに少し外れたところに向かって,そして性格との関係を見ようとする人が多いんでしょうね?きっとかなり興味は持ってもらっているのでしょうが,漠然としていてなかなか研究テーマになりにくいから具体的な概念に向かうのかもしれませんね。また,やりつくされていると思っているから今更向かって行こうと思う人もいないのかも知れませんね。

―――心理学研究の流れを見ていくと,ブームってあると思うんですよ。性格というところにブームがいっていたりだとか,行動にブームがあったりだとか・・・。

 そうですね。日本はアメリカの影響を受けやすいように思えます。ヨーロッパの影響は比較的受けにくいんじゃないかなと思っています。ヨーロッパでは,まだ地道なパーソナリティ研究がブームとして残っているところがあるんですよ。そういう学会に行くと,僕は結構人気者になれるんですよ。
 5因子と他の何十個という尺度の相関表を日本でどんと貼っても・・・,たぶんアメリカで貼ってもそんなに興味を持ってくれる人はいないでしょうね。でも,ヨーロッパの特定の学会に行くとかなり有名な人まで集まってくれて評価してくれます。そう考えると,色んなところで流れがあるので,流れているところに行けばいいんですよ。

―――確かに,そうですよね。そのうち,日本にもまた,大きな波が来ますよね。

 うん。まーこなくてもいいんだけど・・・なんて,そんなことはないですけど。呼び水になれればいいですよね。

―――やっぱり,研究者として,自分の研究領域が活性化されるのは,すごい嬉しいことであり,おしりを叩かれるような感覚が生まれるような気がしますね。

 そうですね。やっぱり同領域の研究者の存在は励みになりますね。情報も交換できるし。

―――やっぱり,研究者は,多いほうがいいですよね。

 多いほうがいいですね。

  ■ 魅力

―――パーソナリティ研究の魅力と言うのはどういうものがありますか?

 さっきの話と被るんですが,わりとみんな自分の性格には興味を持つわけですよ。自分というものがどういう性格であるとかね。それに対して,1つの枠組み,分かりやすくて明確で汎用性がある枠組みを使って,「あなたはこういう性格だ」ということが提示できるといいですね。
 さらに,結果を呈示すると,それはどういう人ですかって大抵聞かれますよね。例えば外向性が高いですねって言えば,それは,どういうことですかと聞かれます。それに対して色んな方向から答えが出せるといいなと思います。つまり,自分はどういう者であるのかという答えをたくさん提示してあげられるのが魅力ですね。魅力と言うより理想かもしれませんが。

  ■ 展望

―――それでは,最後に今後の展望をお聞かせ願えますか。

 がんばって,研究成果を積み重ねることです。

―――研究の積み重ねというのも,忙しいと,なかなか難しいですよね。

 そうですね,自分もそうですし,他の大学院生の方を見ていても思いますし,先生方でさえ悩んでいることですよね。一般社会に生きている人も悩むことでしょうね。効率よく毎日過ごすことを目指して,「毎日この2時間は研究に使う」とかルールを考えて対処しようとするんですけど,なかなかそう上手くはいかないんですよね。思わぬ出来事も多いですしね。他の研究の連絡が遅れて届いたり,思わぬ仕事がたくさん溜まったりね。余裕を持って計画しても後から後から色んな指示がきて突然動けなくなったりすることもありますね。

―――他にも学生の相手をしなければならなかったりとか,大変ですよね。

 そうなんですよ。それでも,何とかやらなければならないと言う決意があれば,いいんでしょうけど。そう思っていつも,断固たる決意を持ってやろうとするんです。

―――素晴らしいですね。私は,自分に甘いのですぐ,決意がポキっと折れてしまいます。家に帰って,この時間帯は研究をしようと思っても,チョットその前に一休みだとか。

 そうですね。ちょっとした休みをね。自分はなるべく外発的に動機づけられないようにやろうと思っているんですよ。たぶん,それを上手く利用してやるべきという人の方が多いんだろうけど。自分の内面の意思だけで思い通りにやりたらいいなぁと思います。実際には外発的な報酬に釣られているんでしょうけどね。いろいろ考えて頑張りましょう。

―――谷さん,お忙しいところ,長々とありがとうございました。




 


 
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