インタビュー企画6:青柳肇

 第6回は早稲田大学の青柳肇先生にインタビューをいただきました。心理学との出会いから,現在の研究に対するお考えや目指すものをお聞きしたいと思います。

 


―――はじめに,心理学を志されたきっかけについて,お話しいただけますか。

 高校一年生の時に神経症になったんですよ。強迫神経症みたいなものかな…。いろいろな物事が気になって集中できなくなって人生最大の危機でした。そのとき、「心ってどうなっているんだろう」という疑問がわいてきたので、禅と精神分析を読んでみました。高校の時まで自分を律して「最高の自分」を保ってきたんですが、それらの本を読んでもっとありのままに生きようと考えました。そのあたりから心理学を勉強しようかなと思いはじめたんですよ。だから、はじめに興味があったのは臨床でしたよ。心理学への関心(高校時代)は臨床からはじめたと言ってもいいかもしれないですね。大学に入って臨床の授業はまったくと言っていいほどなくて、意外でした。仕方なく、他の心理学をやってみたんですが、結構それ以外の心理学も面白くなってきました。それから、大学に入って、空手部にも入りました。それは空手に興味があったからではなくて、自分のカタルシスのためだった気がします。そのうち、空手のおかげもあってか神経症も治ってきたし、臨床にも興味がなくなっていきました。だから、心理学をはじめたのは自分の病んだ心を治そうと思ったのがきっかけかな。


―――先生の研究領域について教えていただけますか。

 最初は動機づけの視点でフラストレーションの研究ですね。
  はじめは動物を使って実験なんかをしていたんですが、やっていて面白かったが、これが、人間の役に立つのかなとも思った。モチベーションの研究、当時はラットだったけど、動物実験をやれる大学は限られていました。最初に就職したところは幼児教育科だったので、それから発達心理学もはじめて、子どもの発達に興味を持つようになりました。特に、達成動機やコンピテンスかな。だんだんと研究が達成動機に移っていきました。この結果として、パーソナリティ領域にも入っていったんですよ。当時、達成動機の測定はTATを使っていましたから。それから、現在は達成動機や無力感を主にした動機づけを中心に研究しています。


―――先生にとって研究の魅力とはなんですか。

 人間がやっている活動でもっとも生き甲斐を感じられることのひとつは、クリエイティブ−創造性−なことをすることです。多くの人間は、自分の意思で創造的なことをやれることはごく限られています。企業に入っても、創造するとはいっても自分のやっていることの全容がつかめず、歯車の1つになってしまっている気がするんです。研究はダイレクトにクリエイティブ−創造性−だと思う。問題や仮説の設定、研究計画、結果の整理、考察と全て自分が設定できる。しかも、たとえ研究結果が思った通りに出なくても、次につなげることができる。しかもこれは、エンドレスだ。僕はそういうところが面白いと思うね。


―――心理学に対して、これからどのようなことを期待しますか。

 心理学は、いままで人間の持っている普遍性について考えてきたけれど、個別性にももっと焦点を当てるといいと思っています。
  心理学を専攻とする若い人への期待になってしまうが、教育、臨床、産業など現場からの問題意識を大事にして積極的関与してほしい。でも、だからといって若い人たちは基礎研究をおろそかにしてはいけないと思います。修士までは基礎をやること。それが、臨床、教育、産業のどの分野にいっても必ず役立ちます。この心理学の基礎を研究の出発点として、人間の幸福、健康などWell-beingについて、人間が幸せに生きていくことに役立つ問題解決を目指してほしい 。


―――最後に一言,若い研究者に向けて一言お願いします。

 研究は苦しいものではないはず。いまの学校制度での学部、修士、博士の課程制度には各段階で論文という義務がある。卒業論文とか、修士論文とか、博士論文とか。今の学生はこの課程ごとの義務を行って来ているので、研究は苦しいものと受け取っているのではないでしょうか。だから、博論を取って就職してしまうと研究をしなくなってしまう者がいます。「修士論文も博士論文も義務ではなく、目的でもない。研究は楽しい」という思いをもってほしい。修士論文も博士論文も目的にしてはいけない、これは単なる一過程なんですよ。
  研究は、クリエイティブ−創造性−にやることが大切です。人間がクリエイティブをもって生きることは大事なことで、人間の幸福に役立つ研究を行うことはもっと大切なことだと考えています。
  研究を喜びにしてほしい。楽しければ、どんどん進めるはず。


―――本日はお忙しい中,ありがとうございました。



※インタビュー当日(2008年10月18日)は、白百合女子大学に生涯発達臨床教育センターが発足し、基調講演とパーティが行われました。青柳先生は生涯発達臨床教育センターの研究員でもありますので、パーティでご挨拶もしていただきました。

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