インタビュー企画9:山岡重行(後半)

■ ユニークネスとの出会い

―――なるほど,よく分かりました。ここで少し話を戻しますが,ユニークネスという概念との出会いは何だったのでしょうか?

 私が学部の3年生だったころに,指導教授から「こんな本が出たから読んでみない?」って言われて紹介されたのが,Snyder & Fromkinの「ユニークネス」っていう本でした。それをサブゼミで読みはじめて,4年生になって卒論でテーマにしたという流れです。

―――そういう出会いがあったのですね。ところで山岡先生を拝見していると,非常にユニークないでたちをされていると思うのですけれど,これは是非伺いたいなと思っていたことなんですが,日常生活とも関係深いものがあったりするのでしょうか?

 私は,多くの人が面白いと騒いでいることがあまり面白いとは思えない,ということが多々ありました。だから,どうも自分が面白いと思えるものはあまり一般受けしないんだ,と思うようになりました。インディーズ系のバンドで遊んでたということも関連しているのでしょうが,好きな音楽にしても好きな映画にしても,あるいはファッションにしても,あぁ自分は多くの人たちとはちょっとセンスが違うんだ,面白いと思うところが違うんだと昔から思っていました。多数派に同調するのは嫌いだし面倒くさいから,自分は面白いと思えることを,好きなことを好きなようにやって生きています。

■ 研究の魅力とパーソナリティ研究への期待

―――そうすると,そんな風に感じるご自分があって,そんな時に指導教授から勧められた本を読んでみてなんか琴線に触れるものがあったわけですね。
 ところで,山岡先生にとって今のご研究の魅力というのは,一言でいうとどんなところにありますか?

 今メインでやっているのが先ほども言った3次元自己制御の研究です。ユニークネス研究の中でセルフ理論的なことを考えていたのですが,セルフだけでは,自分の中の本当に純粋に認知的なことだけではだめだろう,あるいは純粋に認知的なことだけ考えるにしても,セルフに情報をフィードバックする集団のことを考えなくてはいけないだろう,そうやってどんどん考えが広がっていきました。この3次元自己制御の前には,個人と集団の2次元でいろいろ考えていた時期もあったんですよ。もう15年くらい前なんですけど,その2次元の自己制御の考えが所属集団の多様性という問題で行き詰って,ユニークネス研究の方も行き詰ってしまいました。それでその間,恋愛研究とか血液型とかに手を出して色々な研究をやっていました。それが3次元自己制御というアイディアが出て,またメインテーマの研究に戻ってきました。この3次元で考えれば,今までやってきたものがかなり統合できるんじゃないかなと思っています。今まで社会心理学で言われていたいろんなものも,その3次元の枠の中で説明とまではいかなくても整理はできるんじゃないかなと思ってやっています。
 これは昨年のGD学会や社会心理学会で発表したのですが,ユニークネス欲求は個人次元の自己制御を優先させる傾向であるのに対し,集団主義は個人次元を抑制し集団次元での制御を優先させる傾向なのです。また,高セルフモニターは3次元全ての自己制御が低セルフモニターよりも強いのです。低セルフモニターは状況に左右されず個人規範で自己制御するのではなく,単純に自己制御が弱く衝動的に行動しているだけなのです。このように3次元自己制御の観点からいくつかのパーソナリティ変数を整理することができます。

―――最初はユニークネス欲求という個人内のテーマから出発して,個人と集団の2次元が見えてきて,それだけではなく集団の背景にある大きな社会というものを加えた3次元自己制御の話になって,そこにユニークネスが絡んで来て,そのようにどんどん統合していけるのではないかというお話ですね。それこそが研究の魅力ということですか?

 そうですね。

―――では一般的に言って,パーソナリティ心理学の魅力とはどこにあるとお考えでしょうか?

 切り口として「こういう人いるよね」「あぁいるいる」,「こういう人ってこうなんだよね」っていうと,聞いた学生が理解しやすいっていうのがあります。状況に影響されるということを理解させるよりも,まず切り口としてこういうパーソナリティの人はこうなんだよって言った方が,スッと学生の中に入っていくという印象があります。その中で,こういうパーソナリティの人もこういう状況だとこうなんだよ,って言ってどんどん話を複雑にしていくという授業のやり方をすることも結構あります。
 しかし,全体的なパーソナリティを把握するなんていうことは,少なくとも現段階では不可能だろうと思います。全体的なパーソナリティを構成する因子を…,というようなことはあまり考えていないですね。逆に社会的な影響として,さっき言った社会と集団と自己のどのレベルをどれくらい強く意識するか,パーソナリティの内容ではなく違う視点で考えた方がパーソナリティを整理しやすいんじゃないかなと考えています。
 それと,これまであまりにもパーソナリティ変数を増やし過ぎたんじゃないかと思うんですね。

―――そんなにないだろうと。

 いや,それはまぁあると言えばあるんですよ。物差しをどうとるかによって,その人の思う物差しを持ってくることはいくらでも可能です。でもそんなに増やしてどうなのかなと思います。例えば集団主義尺度と相互協調的自己観尺度は道具としてほぼ同じ傾向を測定しています。まあ,相互協調的自己観自体が集団主義の言い換えですけどね。もうちょっと,客観的って言っていいかどうか分からないですけど,横っちょから整理する視点を3次元自己制御が提供できるんじゃないかなって思っています。

―――確かに,人間の性格をいろんな角度から取り出して行けば無限にあるわけですね。それをしらみつぶしに調べていくのは,あまり建設的ではないかも分からないですね。
 それでは最後に,今後パーソナリティ研究を目指す後進たちに,何か一言お願いします。

 そうですねぇ,まぁ「自分が面白いと思うことやってみなさい」ですね。役に立つ研究と面白い研究が話題として残りますから。面白くて役に立てば一番残りますが…。それがどんな研究にしても自分の好奇心っていうのが一番の原動力になるはずですから,まずは自分の面白いと思うこと,自分なりの面白さっていうものを追及していってほしいですね。

―――ほんとうにそうですね。今日は長時間にわたりありがとうございました。
 
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