インタビュー企画16:北村英哉

 第16回は東洋大学の北村英哉先生にインタビューをさせていただきました。先生が学部生や大学院生のころのエピソード、そして若手研究者へのメッセージをお聞きしました。

―――先生が心理学に興味をお持ちになったきっかけや時期をお聞かせください。

 高校時代に倫理の授業で哲学的に意識の問題を論じていたのが、この種の領域に関心を持ち始めた最初で、大学入学後に学科の進路が決まるので、その際いろいろ心理学の本を読んでみました。今にして思えば、そのとき読んだ一冊に南博先生の社会心理学があり、そのときは社会心理学をやるとは思っていなかったのですが、不思議なものです。
 
―――先生はなぜ研究者になろうと決意されたのでしょうか。

 高校時代から漠然と研究に一生を費やすような生き方への憧れはありました。好きなことをして暮らせるのもいいなというのと (笑)、役に立つ発明・発見ができたらすごいし、いいなぁと。当時はまだ文理も考えていませんでしたし、どんな領域というのもありませんでしたが、大学入学後には、社会学、哲学、宗教学、倫理学、心理学、史学といろいろ考え、最後には、史学か、心理学か迷いました。だんだん考えが煮詰まってきて、決め手もなく、最後に読んだ心理学の本がおもしろかったのと、心理学のほうがたくさんの文献を読まずに研究できそうで「楽そう」というヒドい考えもよぎり (思考に煮詰まってだいぶ疲れてたんでしょう・・・)、心理学に決めました。でも、まだ心理学が何かもよくわかっていなくて、人格領域に関心があったのですが、進学振り分けの際のうわさで、心理学科はネズミなんかの実験、社会心理学科も「実験だよ〜」とか言われていて、「実験」というもののイメージがいまひとつよくなかったのか (笑)、教育心理学科へ進学することにしました。今、実験社会心理学が自分の専門なのですから、お笑い的事態ですね。実験がどういうものかも全然わかっていなかったのです。
 そんな風にはじめから研究者志向はあったので、これが単に専門を決めていくプロセスのようなもので、進学したら、大学院まで行って研究者になるのが自分の人生としてあたりまえのことだと思っていました。
 決意・・・というのは実は大学院時代、一瞬就職しようかと休学したり、修了後進学しなかったり (できなかったり) した時期がありました。けれども、いろいろな経験の中で研究するのが一番、自分に合っていると思うようになり、そのときからは、より自覚的に「研究者」になろうと考えました。自分が原理的・分析的思考をしやすいという点と、なにかをつくっていくよりは、考える方が好きだし、実践より思考 (いいのか悪いのか微妙ですけど) だと自分の性質を実感したからです。実践も嫌いじゃないんですけど。いずれにせよ、結局そんな大それた発明・発見とは縁のなさそうな人生を歩んでしまっていますが・・・。

―――大学院生のころ、先生はどのような研究生活を送ってこられたのですか。

 修士課程の頃は臨床でしたから、問題のある子どもの家庭教師とか、相談室で、自閉っぽい子や不登校の子のプレイ・セラピーをしたり、青年の面接をしたりしていました。また、開放病棟の精神病院の見学や泊り込みの研修、小児糖尿病の子どもたちのセルフ・コントロールを上げる治療的なサマー・キャンプの心理スタッフとしての運営などかなり活動的なことをしていました。学園祭でも自閉児のビデオをNHKライブラリから借りてきて、「ぴあ」に広告を出して上映会を行い、無料にしたことを他団体の方に怒られたり、知能障害施設を運営する方に講演に来てもらったり、コミューンに合宿体験してみたり、NTVの「24時間テレビ愛は地球を救う」の企画プロデューサーに趣旨についてインタビューに (いちゃもんつけに?) 行ったり、環境運動の市民団体に参加して、フリーマーケットをダイエーの屋上で運営したり、「樹木譲ります」なんて企画をうって埼玉のいなかの方に行って苗を分ける作業をやったり、その団体では、現在の無農薬・低農薬野菜や卵を農家と契約して提供する「らでぃっしゅぼ〜や」を立ち上げたり、ずいぶんさまざまなことをしていました。若いときにやりすぎた感もあります。
 あ、勉強のことですね。博士課程の進学直前では、妻の大学であるICUの図書館にこもって、社会的認知の洋書や論文を片っ端から読んでいました。最初、実験もICUでやりました (お世話になり、ありがとうございました)。自分の大学に行っていない間に当時まだカードリーダーで入力していたデータのパンチカードが捨てられていたり、いろんな事件や逆境もありましたが、おおまかには活動一辺倒の時代とひたすら外書を読んでいた時代があったという感じでした。
  おまけのことでいえば、在学中に結婚しました。それからは塾講師のアルバイトなどをして、自分で全ての生活費を稼いでいました。

―――最後に、研究者を目指す若手の方々にメッセージやアドバイスをお願いいたします。

 今まで述べたようなさまざまな経験は、すべて今の自分や今の研究に役立っています。いまだに自分のなかでそれらの経験の相互作用・相互関連性におさまりがつかず、ばらばらな部分もありますが、きっと死ぬ頃までにはなんらかの関係がついていることと期待しています。
  ですから、若手の方々にはとにかく臆することなく、いろいろ興味をもったことがらに積極的に取り組んでほしいと思います。今は、博論を書くことが必須になったためにまとまりやすい研究を体系的にきちんと行い、それを短い時間でこなすために集中して一所懸命になりがちです。そのため、院生だから時間的自由がもっとあって、多様な体験をしていくという「遊び」の部分が減少しているような印象があり、残念です。時間的制約があるので仕方ないともいえますが、就職したら、またそこで時間を確実にとられるので、狭い人生経験を拡げていく工夫はどこかで意識してやらないといけないような気がします。博論に含まれなくても関心のある現象に関わるフィールドに出たり、インタビューをしたりしてその現象についての思索をいっそう深めておくことは、必ず自分の役に立つと思います。ぜいたくな要望ですけど・・・。


―――たくさんの貴重なご体験や含蓄のあるご意見を伺うことができました。なお、このインタビューは、メールでのやりとりに基づいています。お忙しい中インタビューに応じていただき、大変ありがとうございました。

interview16.jpg
 
Homeへ戻る 前のページへ戻る
Copyright 日本パーソナリティ心理学会