自著を語る

 

西川隆蔵著『パ−ソナリティの開放性−閉鎖性の研究』
  (価格 本体8500+税 風間書房 1999年3月刊)


 本書は、1994年3月に関西学院大学に提出した博士学位論文にいくつかの論文を加えて、風間書房より出版したものです。 私はもともと創造性や精神健康性に興味があって,大学院で学んでいた時は創造的パ−ソナリティの研究というテ−マのもとで論文を書いたり,学会発表をしたりしていました。しかし,いつ頃からか,創造性にしても,精神健康性にしても,その最も基本となることは何か,人間の発達を可能にする根源的特質は何かといった問題について興味を持つようになりました。

 そして私は有機論的,全体論的な考え方に立って,人間を環境との相互作用の中で絶え間なく変化発達する開放的なシステムとして捉えることが、人間の生涯発達の可能性や健康性を考えるうえでの基本的な視点となると考えました。人間や動物,また植物をも含めた有機体は、すべて一つのシステムとしてとらえることができ,そのシステムの発達変化は,外界と相互に影響を授受しあいながらの交流に支えられています。先に述べた根源的特質とは,そのようなシステムの「開放性」にあるといえるわけで,これは「人間は関係の中に生き,関係の中で悩み,関係の中で癒され,そして人生を終えていく」,つまり人間は関係を離れて存在しえないことも意味しています。ただし,人間が基本的に開放性という概念によって特徴づけられるとしても,そこに個人差のあることはいうまでもなく,パ−ソナリティ研究における必然的課題として,行動そのものの個人差を開放性という観点から評価する枠組みを持たねばなりません。さらにもう一点、開放的,閉鎖的という言葉は人間や集団の特徴を記述するうえでよく用いられてはいますが,必ずしもその意味については明確な規定がなされているとは言えませんし、一般的に開放的であることには肯定的なイメ−ジを抱き、閉鎖的であることには否定的なイメ−ジを抱くけれども、それでは「なぜ、開放的であることが必要なのか」、「なぜ閉鎖的であることが良くないのか」というような疑問に対して、これまで明確な答えを探すことはなされてこなかったように思われます。

 以上のような問題に取り組みたいという気持ちから、開放性−閉鎖性尺度なるものを作成して、幾つかの実証的な検討を試みたわけです。大きなテ−マに手をつけてしまったため,まさに「日暮れて道遠し」の感はゆがめないのですが,ともかく一つの区切りとして今日までの研究の成果をまとめ,公刊した次第です。以下に章立てを示しておきます。

(目次)
第1章 状況・行動・パ−ソナリティ
第2章 認知システムの開放性−閉鎖性
第3章 開放性−閉鎖性次元の測定
第4章 青年期の自己意識と開放性−閉鎖性(その1)
     −自己評価的意識との関係について−
第5章 青年期の自己意識と開放性−閉鎖性(その2)
     −自己同一性との関係について−
第6章 青年期の自己意識と開放性−閉鎖性(その3)
     −自己の一体性・分離性の意識との関係について−
第7章 研究結果のまとめと今後の研究の視点
第8章 人間関係と自立のプロセス
第9章 適応と精神健康性
   

 
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