第5回大会シンポジウムの報告

堀毛 一也(東北福祉大学)

  

第5回大会では

「状況研究の諸相と性格心理学」と題し、企画者・指定討論者 を含む5名によるシンポジウムを開催した。
まず企画者である堀毛が、話題提供者 の紹介とともに、これまで行われてきた状況研究のレヴューを行い、状況に関する体系的 な研究が欠如していること、とりわけ社会心理学や社会学的なアプローチは試みられているが、 パーソナリティ心理学からのアプローチが少ないことを論じた。
そして、このシンポジウムが、隣接領域の知見の紹介とともに、性格心理学の中で 「状況」という概念をどのように取り扱うべきか、その方向性を探る目的をもつことが 述べられた。

  

中村(南山短期大学)は、

状況と一口にいっても刺激から生活状況に至るレベル の違いがあるとする知見を紹介した上で、社会心理学の中では状況認知次元の抽出や状況 の分類が主たる関心を集めてきたことを示し、その内容について自らの研究を含む具体例 を取り上げながら、こうした研究が、あるタイプの人はあるタイプの状況である行動をしがち であるというマクロな予測に役立つことを示した。
一方で、状況認知の個人差に目を向ける 必要があること、特に知覚から行動へのプロセスモデル的なアプローチの中で状況の影響性を 論じることが大切であるという考え方も明らかにされた。

  

佐々木(東京大学)は、

ミミズなどフィールドに見る動物行動を例にとり、 アフォーダンスに関する巧みな解説を行った。
たとえば、ミミズには落ち葉などを 利用して巣穴ふさぎをするという習性がある。
穴ふさぎには葉の先端部分が用いられる ことが多い。
そうした行為を誘発するものは葉のもつアフォーダンスであり、反射や 試行錯誤によって行為が生じるわけではない。
この例に見られるように生物は柔軟に 環境の意味を特定化する傾向を有すると考えられる。
アフォーダンスとは行為によって 発見される外界のポテンシャルなのである。
このような論議が豊富な実例とともに進められた。
パーソナリティの果たす役割を仮定するならば、こうした環境に存在するアフォーダンス を調整したり、予期的制御を行うという点で意味をもつことになろうという見解も示された。

  

黒沢(千葉大学)は、

自らの立場が行動を中心に据えた実験的性格心理学で、 行動の個人差と内的プロセスの解明が課題であると論じ、こうした課題への取り組みには、 行動が生じる状況の理解が重要な意味をもつと述べた。
さらにミッシェルの研究を引用しながら、 人と状況の交互作用の重要性を指摘した。
交互作用とは単純な統計学的な交互作用ではなく、 状況への働きかけや時間軸による変化を含む力動的な交互作用を意味する。
こうした交互作用の実態を理解するためには、状況と行動の結びつきが個々人の中でどの ように概念化されているか、その分類や個人差を理解することが重要で、ミッシェルも一貫して こうした課題に取り組んでいることが指摘された。

  

これらの

発表を受けて指定討論者の佐藤(福島大学)は、パーソナリティ研究が多様な 方向に発展していることを指摘し、行動の状況的決定性に関わる論議も、社会心理学的な S−O−RのOで生じていることを重視する方向性と、行動主義的なR−S−R−S−で 示される時事刻々性を重視する方向性に分かれているとする解釈を示した。
前者では認知の個人差と内的なプロセスとの対応づけが問題であるとされた。
後者についてはアフォーダンスとの関連性についてやりとりがなされたがやや論議がかみ あわないという印象を受けた。

  

総じて

今回のシンポジウムは、パーソナリティ 研究における状況変数の重要性をあらためて認識する機会にはなったが、具体的な研究の方向性 を示すには至らなかったというのが企画者としての正直な感想である。残念なことに内容を テープ等に記録しておらず、この原稿も急な依頼に基づきメモと記憶をもとに再構成したものである。
なによりも筆者の理解のいたらなさにより、発表者はじめご参加頂いた方々にはご迷惑を おかけすることになるが、何とぞご容赦いただきたい。
また、企画者としては、シンポに 対する感想を聞かせていただきたいという気持ちが強い。
そうした意味で、個人的な見解 ではあるが、ニュースレターにも、企画した側の報告とは別に、参加者からの報告・評価など が掲載されてもいいように思われる。
その場合事前に人選を行うことなど準備が必要で、 広報委員の先生方のご苦労を一層増やすことになるが、ご一考賜れば幸いである。

  

なお、

当日参加を予定していた佐藤郁哉先生から、急なご事情でやむを得ず参加 できなっかったこと、会員の諸先生方に深くお詫び申し上げたいという連絡をいただいた。
先生に参加していただければ、一層活発な論議が期待できただけに残念であった。
時間調整を誤りフロアとの論議の時間をとれなかったこともあわせ、ご参加頂いた皆様に あらためてお詫び申し上げる次第である。


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