臨床心理士資格認定協会の大学院指定に関するアピール


臨床心理士資格認定協会の大学院指定を考える会幹事

青柳 肇(早稲田大学)

 今般、財団法人日本臨床心理士資格認定協会 (以下認定協会と記す)により提案され、平成8年4月1日付けで発効された「臨床心理士」資格認定のための大学院指定制に潜む問題点を考える 場として、標記の会を設立致しました。本会の会長は、藤永保先生でありますが、私が幹事をしております関係で、ここにアピール文を書かせ ていただくことになりました。性格心理学会員の皆様の御高配を賜りたく存じます。もちろん、本会は「認定協会」の提案に単に反対することが 目的ではなく、心理学界全般の健全な発達を願ってのことであることは申すまでもありません。本会は、心理学の貢献が社会的に認知されること に対して、おおいに賛成いたすところであります。その意味では、近年の心理学諸学会で独自の資格認定の問題が論議され設立ないしその動きが あることに対してはある面で望ましいことと思っております。しかしながら、本会ではあくまで心理学全領域の共存的発展を望むのであって、 他の領域あるいは学会のなんらかの犠牲のうえに立った、いわば特定の領域だけが利益を受けるような改制を望むものではありません。さらにこ の問題は、心理学全領域の中で「心理学はいかにあるべきか」という論議を行うことから出発し、「臨床心理士」等の資格問題もそうした論議の中に 位置づけられていくことが望ましいと考えます。

 こうした論議がないまま唐突と思えるような今回の「認定協会」の提案のしかたは、賛成いたしかねる側面があると思います。なお、「認定協会」 の提案の大要は、別紙に書かれたとおりです。本会は、この提案に対して以下の点で問題があると考えております。

(1)心理学諸学会 に何の相談もなく、このような重要な提案がなされ、十分な論議の時間もなく実行された点について

 「認定協会」は、多くの心理学諸学会の 協力を得て設立された経緯があります。今回の提案は、広く心理学界全般にかかわる問題を含むにもかかわらず、そうした多くの心理学諸学会 に知らされず、心理学ワ−ルドで広く十分な論議がなされないまま一財団のみでほとんど秘密裡に進められ、早急に実行されようとしていると しか考えられません。
 本会の調査では、この提案が知らされていた人や機関(大学等)はごく限られておりました。しかも、知らされた機関(大学等)にしても、 入試等で多忙な2月7日付けであり、その2カ月弱後(4月1日)に提案が発効し、9月1日から申請の受付開始という非常に短期間のスケジュ−ル で進行するといった具合で、十分論議をすることができない状況でした。われわれ心理学徒は、自由で公平な立場での討論や情報の公開性を尊重 すべきだと考えます。こうした点で、今回の提案のプロセスには無理があり、心理学徒に対する道義的責任があると思います。本会は、「臨床心理士」 の資格は多くの心理学諸学会の理解と協力のうえで、名実ともにグレ−ドアップすることを切望するとともに、多くの資格の共存的発展を願っ ております。

(2)一団体の資格が大学の自治(人事権・カリキュラムの設定)へ介入することへの疑義

 今回の改制に示されているような「臨床心理士」 の資格をもつ教員数の規定、指定教科目の規定や名称の規定、さらに今回の改制の骨子である指定校制度は、結果として大学(大学院)がもつ自治 への介入や不当な大学(大学院)のランク付けの結果を招くことが危惧されます。元来、どのような目的でどのような学科を作り、どのようなカリ キュラムを構成し、どのような教員を採用するかは、大学(大学院)が自由に決めるべきで、公的な大学設置審議会以外に、一団体の運用規定で 束縛されることは、重大な問題だと考えます。
 一例を示せば、1・2種の資格のランク付けは、大学(大学院)のランク付けに連動し、そうした状況に置かれることが結果的に大学(大学院) の自治への介入を生む疑義が否定しきれません。また、臨床心理学の健全な発展のためにも、大学(大学院)で資格取得面ばかりが強調されること は決して好ましい状態ではないと考えます。心理学はその本来の学問的性格からして、多様性を尊重することが重要で、臨床心理学徒の養成について もいろいろな道筋があることを保障することが肝要と考えます。そのため、多くの心理学諸学会の理解、協力なしには健全な臨床心理学の発展も考え られません。また、そうした心理学ワ−ルドの多くの選択肢の中から大学(大学院)自らが選び得る可能性を奪うべきではないと考えています。
 本会の趣旨にご賛同いただければ、本会への入会をお誘い申し上げます。現在会員数は11月7日時点で70名と小さな会でございますが、 多くの賛同者を得て認定協会に本会の主張をアピールし、改善を求めていく所存ですのでよろしくお願いいたします。連絡等は、下記にお願い申し上げます。


事務局住所:
〒359 埼玉県所沢市三ケ島 2-579-15
早稲田大学 人間科学部 青柳研究室内
「認定協会」の大学院指定を 考える会事務局

事務局電話:
0429−47−6741 ( Dial In)
不在の時にはメッセージをお残し下さい。

FAX:
0429−47−6806
(共用のFAXですので、メッセージの頭に「青柳宛」とお書き下さい)。

E-Mail Address :
aoyagi@human.waseda.ac.jp

(付記)
なお、本会は、本年10月15日に、以上とほぼ同じ内容の質問状を臨床心理士資格認定協会会頭宛に配達証明郵便で提出いたし、 書面での回答を求めましたが、今のところ(11月7日現在)これに対する回答を得ておりません。

「臨床心理士」受験資格に関する大学院 専攻課程(修士)の指定運用内規<抜粋>の大要を述べれば、以下のとおりです。
 満たす用件により大学院を2種類に分類し、各大学院 終了後1年ないし2年の臨床経験後「臨床心理士」資格認定審査のための基礎受験資格に関する終了書を発行できるとしています。満たす用件とは、

資格審査規定第8条第1号に該当する大学院(第1種)の場合、
 (大学院終了後1年の臨床経験を要する)
@専攻課程の名称は、原則 として臨床心理学(心理学・行動(科)学を含む)、心理臨床学、発達臨床学、臨床教育学、のいずれかによる。
A担当教員は、「臨床心理士」 の資格取得者5名以上で、かつ専任教員は、3名以上とする。非常勤講師は、年単位で0.5名として換算できる。
B臨床心理実習を適切に行う ことが可能な当該大学(院)付属心理・教育相談室、またはこれに準ずる施設を有すること。
C修士論文のテーマと内容は、臨床心理学に関 するものであること。

資格審査規定第8条第2号に該当する大学院(第2種)の場合、
 (大学院終了後2年の臨床経験を要する)
@専攻課程の名称は、人間科学、人間関係学、教育学、児童学、社会学、発達科学および健康科学のいずれかによる。
A担当教員は、 「臨床心理士」の資格取得者4名以上で、かつ専任教員は、2名以上とする。非常勤講師は、年単位で0.5名として換算できる。
B臨床心理実習を適切に行うことが可能な当該大学(院)付属心理・教育相談室、またはこれに準ずる施設を有すること。但し、「準ずる施設」 とは、当該大学に組織上直接編成されていない場合も考慮されることもある。
C修士論文のテーマと内容は、臨床心理学に関するものであること。

いずれの大学院においてもそれぞれが開講するカリキュラムは、臨床心理学またはその近接領域に関する授業科目24単位以上で構成されていること。 但し、以下の4種の授業科目と所定の単位は必須とする。
臨床心理学特論・・・(4単位)
臨床心理査定特論・・・(4単位)
臨床心理面接(心理療法、カウンセリング)特論・・・(4単位)
臨床心理実習・・・(4単位)
当該大学院の指定期間は、 4年間とする。延長希望の場合は、更新手続きをとるものとする。


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