研究余滴


成人間アタッチメントの研究――カップルと私と研究


松岡陽子(早稲田大学大学院人間科学研究科)

 
 私が小学生だったある日、街でデートするカップルたちを目にしてふと生じた疑問があります。“なんであの人たちオトナなのに手をつないでるんだろう? ワタシだってもうお母さんと手をつないで歩いたりなんかしないのに……???”。
高校1年生だったあるとき、カレシと別れたばかりという同級生の友人に、私は少し苛立ち交じりの疑問を感じました。“自分から嫌になってフッたのに、しかも次のカレシ候補がいるっていうのに、なにがそんなに悲しいんだろう? いったいどうしたいんだよ……?!?”。
現在、私が取り組む中心的な研究は、こうした問いの延長線上にあります。私の研究テーマは、アタッチメントの生涯発達。特に、青年から成人の恋愛あるいは夫婦関係に注目し、それらを成人(青年)間のアタッチメントという視点から検討しています。
そのような研究のひとつとして、出産を控えた夫婦のコミュニケーション場面の観察を行っています。将来生まれてくる子どもに関連した具体的なテーマを、研究協力夫婦自身で挙げてもらい、そのテーマに沿ったディスカッションやインタビューの様子をビデオカメラで撮影します。夫婦が共有する出産という大きな出来事をめぐって浮かび上がる彼らの関係性を、アタッチメントの観点からとらえられれば ―それがこの研究の一応のねらいです。
この研究がはじまったころから、私の周囲はちょうど結婚ラッシュで、友人や幼なじみの結婚、また最近は出産の声も多く聞こえてくるようになりました。
 そうした中、この研究を通して、私はある夫妻と特に印象深い関わりをもつことができました。その夫妻とは、私のもっとも古い幼なじみであるYちゃんと彼女の夫、Kさんです。産科病院の両親学級に加え、私自身の対人ネットワークを駆使して行った研究協力者募集に対し、彼らが快く応じてくれたというわけです。
 さて撮影当日。私とYちゃんは、彼女の結婚後はじめての再会、またKさんとはそのときが初対面となりました。
 お腹のぽっこり出たYちゃんを見て、また少し遅れて現れたKさんとYちゃんが並んだ姿を見て、私はある種の感慨とともに、「問いになる前の問い」のようなものを抱きました。“あのYちゃんがツマ、あのYちゃんがハハ……???”。それは、私にはそれまでどこか遠く感じられていた「結婚」とか「出産」、「夫婦」、「新しい家族をつくること」が、幼なじみYちゃん夫妻を通し、急に身近に迫ってきたような、でもやっぱり遠くにあるような、そんな違和感といってよいかもしれません。
YちゃんとKさんのディスカッション場面のやりとりは、さらに私を惹きつけるものでした。この場面から、まずはぼんやりした輪郭で浮かんでくるふたりの“すーごくイイ”関係性。またそこから、彼らの両親の夫婦関係、彼らと両親との関係、彼らともうすぐ生まれてくる赤ちゃんとの関係などが、絡みあいながら映し出されてくるような気がしました。“私に伝わってくる、このふたりのイイカンジ、いったいどういうことなんだろう?どうすれば、それをうまく表せるかなあ……???”。
 私が目にし、耳にし、ときに友人や研究者として関わらせてもらうカップルたち。彼らから私は、私自身の発達ともあいまって、数々の問い、研究のヒントのようなものを与えてもらいます。
 Yちゃん夫妻を通して感じられた私の問いの先にも、この「夫婦研究」、今後の研究、そして私自身の発達の道すじが、少し大きな広がりをみせつつ続いていくような気がします。
 さあ、まずは、Yちゃん夫妻のこのデータにしっかり向かわなければ!


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