ミニ特集*学会への一言
パーソナリティ・プロセスの心理学
黒沢 香(千葉大学文学部)

 まったく個人的な意見で始めることに少しためらいを感じますが、性格心理学よりパーソナリティ心理学、研究対象も性格・人格でなくパーソナリティ・プロセスだと思っています。その意味で、学会名称を日本性格心理学会から日本パーソナリティ心理学会または日本パーソナリティ学会に変えることに賛成です。

 もちろん厳密には、学会名称の性格心理学は私が考えるパーソナリティ心理学を意味しているはずです。しかし、他分野の心理学者も含めた学会外の人たちはもとより、会員の中にも、性格それも特に固定的・特性的なものを研究する学問のイメージを持ち続ける人が少なくないように思います。ずっと特性論を批判し続けている者として、そこに問題があると思い、上に書いたように考えるわけです。

 英語の personality は、文字どおり、人間を人間にするものであり、特定の個人については、その人をその人にするもの、つまり個性のことです。このことも示すように、人間には他の人と共通する側面と個人差の側面があります。とはいえ、個人差こそが人間らしさであり心理学の存在理由だと思います。個人差がなければ、学問としての心理学が存在したとしても、ずっと単純で、たぶんあまり面白くないものになっていたに違いありません。

 特に行動における個人差を重視する。だから状況論はダメだし、といって特性論でもない。安易な特性−状況相互作用論もとらない。そうなると、残るはパーソナリティ・プロセスしかない、ということになります。一般の人が自分や他者について深く考えるとき行きつくところ、それがパーソナリティだと思います。その人が何を考え(思考)、感じ(感情)、求めているか(動機づけ)です。言いかえれば、その人の中で起きていることです。そのようなことを推測しようとすると思いますが、心理学も同じでしょう。というより、そこから科学的・実証的な心理学が始まったはずです。

 だから、一般の人がもつ心理学のイメージに最も近いのがパーソナリティ心理学だと思います。人間をまるごと理解しようとする。人間を人間にするものを研究する。データにもとづき法則性を求め検証する心理学。これこそがパーソナリティ心理学であり、心理学の最も基本的な分野だと考えるのは、我田引水的で自己中心的すぎるでしょうか。

 このように、私が考えるパーソナリティは、人の内側で実際に起こることであり、起こると仮定できるものです。ただし、外界からの影響を受けて連続して変化していく「プロセス」を考えるのが、ごく普通の素人心理学と違うところでしょうか。パー ソナリティ・プロセスを理論化することで、人間をまるごと理解したいと考えるのが私の心理学です。具体的には、社会認知、感情、動機づけを自己・自我とからませて考えています。

 最後に、時間軸について一言。ミリ秒で起こることから、一生かけて起こることまで、パーソナリティ・プロセスの時間スケールには大きな広がりがあり、そこに誤解の生じる余地があるように思います。外界の影響が刺激であれば、認知心理学と同様のプロセスが考えられます。その人がおかれた直接的社会的状況なら、秒・分・時間という実験社会心理学的枠組みを考えなくてはならないでしょう。もっと大きな社会や、教育心理学・発達心理学の分野なら週から月・年と、さらに長い時間を考えなくてはなりません。それぞれに対応する内的なプロセスが想定でき、その変化のプロセスが臨床心理学・カウンセリング心理学に関連するはずです。文化心理学も同様に、相当に長期のプロセスを考える必要があるでしょう。私たちはそれぞれ関心が違いますが、その関心に引きずられて、この時間スケールにおける違いを見失いがちのように思います。プロセスの概念を中心に、パーソナリティ心理学(性格心理学も)がひとつにまとまるため、ぜひ認識しておきたいことだと思います。


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