ミニ特集*自我・自己の探求

研究者としての自己確証 (?) 過程

勝谷紀子(東京都立大学大学院)katsuya_noriko@nifty.ne.jp


 ここでは、「研究者としての自己」について書きたいと思います。

 15年前、わたしはご多分にもれずカウンセラーを夢見る高校生でした。大学では少しでも臨床っぽいゼミに入ろうとしたものの選考のくじ引きではずれてしまい、希望者が少なかった社会心理学のゼミにしょうがなく入ったのでした(N先生、ごめんなさい)。

 ふたを開けてみればやたらと厳しいゼミで、最初の頃は「なんでこんな目に」とぼやいてばかりでした。ところが、自己開示、自己呈示、自己確証といった自己についてのトピックが社会心理学にあることを知り、しだいに興味をもつようになっていきました。一方、もともと関心をもっていた臨床心理、メンタルへルスの問題への関心も捨てきれず、なんとかこれらを結びつけたいとぼんやりと思いはじめ、抑うつとセルフディスクレパンシー理論を卒論のテーマにとりあげたのでした。

 自己概念が安定していない場合には、特に他者からの評価や行動に影響を受けやすいという話がありますが、わたしもまさしくそういった状態でした。大学院生になってからも、研究会や学会で聞いたトピックに心を動かされたり、たまたま読書会で発表を担当した章にとびついてデータをとろうかと画策したり、諸先輩方の批判を受けて抑うつをやるのをやめようかと悩んだりと、あぶなっかしい日々を送っていました。周りの方々にもずいぶん迷惑をかけてしまったと思います。

 こうして、あれこれと模索したり悩みながら、抑うつになりやすい人の対人関係や、対人関係が原因となって抑うつが発生・持続するプロセスを社会心理学の概念や手法を使って調べよう、というところまでたどりつきました。今では、重要な人が自分のことをどれだけ大事に思ってくれているのか、受け入れているのかなどを繰り返し確かめようとする「重要他者に対する再確認傾向」をとりあげて、主に調査によって抑うつになりやすい人の対人関係を調べています。

 自分はこういう研究をしていこうという自己概念がなんとか固まるところまで、ずいぶん時間がかかってしまいました。これからは、自分なりの立場からの研究をさらに積み重ねて、「わたしはこういう研究をやっている」という自己概念をさらに確かなものとしていかなくてはと思っています。

 一方で、ようやく固まりつつある自己概念を変容させていきたいとも考えています。まず、さまざまな研究アプローチ、たとえば、実験室実験を行なう方、高度な統計手法を扱う方、面接やフィールドワークによる質的データを扱う方々と関わり、その仕事から学ぶことで自分の研究アプローチも多様化させていきたいと考えています。

 また、抑うつに関心があるといっても、臨床、教育、福祉といった現場の状況や問題をほとんど知らずに研究をしているというわたし自身の問題があります。そこで、将来はこうした現場での実践に取り組む方々との共同研究を行うことで、現場での問題をとりいれてわたし自身の研究トピックを変えていき、自分の研究を現場にどう生かせるのかを考えていければと思っています。

 このようにして、「わたしはこういう研究をやっている」という研究者としての自己概念を確証していくとともに、柔軟に変容させていきたいと思っています。


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