【巻頭言】
縦断研究にかかわって
二宮克美(愛知学院大学情報社会政策学部)

 パーソナリティなどの発達的変化を明らかにする研究方法として、縦断研究の重要性が指摘されている。しかし、いざその方法にかかわってみると、「言うは易し、行うは難し」を実感してしまう。私がかかわってきた縦断研究を紹介し、その時どきに感じた気になる点を述べ、良いアイディアを教えていただければ幸いである。
 私はこれまでに3度、縦断研究にかかわってきた。
 1つは、久世敏雄先生(当時名古屋大学)を中心に行った「社会的態度」の研究である。1972年度から1979年度の8年間にわたり、中学1年から高校3年までの6年間の社会的態度の変化を3つのコホートを対象に収集したものである。毎年1回調査を実施し、被調査者の延べ人数は4,171名であった。しかし、6年間もれなく調査を受けた者(縦断データとして利用可能な者)は最終的にわずか140名であった。この研究成果の概要は、久世敏雄編『青年期の社会的態度』(1989年、福村出版)として結実している。
 2つ目は、首藤敏元氏(埼玉大学)と山岸明子氏(当時順天堂医療短大)との共同で行った「たくましい社会性」の研究である。1993年度から1997年度にかけて、小学5年・中学1年・中学3年の3時点で、2年に1度調査を実施した。最終的な縦断データは325名であった。この研究成果の一端は、祖父江孝男・梶田正巳編『日本の教育力』(1995年、金子書房)に収められている。しかし、この縦断データの最終的なまとめはまだやり残したままである。
 3つ目は、氏家達夫氏(名古屋大学)を中心とする「中学生の社会的行動」の研究である。2002年度から3年間の予定で現在進行中である。中学1年の2学期から、毎学期に調査を実施し、中学3年の2学期まで計7回の調査を行う計画で、2004年10月に終了予定である。中学生の親(父親・母親)に対しても、1年に1度調査を実施している。中学3年間の3時点での親データ(両親そろった)として貴重なデータになると確信している。  3つの縦断調査にかかわってきた経験から、いくつか気になる点を感じているが、紙幅の関係上、3点だけ指摘しておきたい。
@データ収集の時間間隔をどうとるか。もちろん研究目的・対象・取り上げる心理学的変数などによって、インターバルが異なることは当然であるが、適切な時間間隔を設定することは案外難しい。
A個々人の発達的変化をどう記述するか。縦断研究の良さは、個々人の発達の姿を浮き彫りにする点にあるが、平均値として個をまとめないで(とらわれないで)、うまく表現する仕方に苦慮している。
B結果を一般化できるか。すべての縦断データが揃っているということそのものが、母集団を代表するものとして適切なのか。欠落したデータを扱うことはできないので致し方ないが、すでにバイアスがかかっている可能性がある。
 いずれにせよ、調査協力者に多大な労力を提供してもらっていることを忘れないで、地道にデータ入力・分析、結果報告を行っていきたいと考えている。


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