【研究余滴】
自分のミカタ
眞榮城和美(白百合女子大学文学部)

 2004年8月、アテネオリンピックの開催で世界中が盛り上がる中、日本人選手たちの活躍に多くの人々が寝不足の日々を送っていたことと思います。私もその例外ではなく、もう寝よう、もう寝ようと思いながらもTVに釘付けになっていました(「まもなく決勝」とか「まもなく○○選手登場」、というキャスターの言葉についついつられてしまい……)。
 競技とともに選手やコーチのコメントが連日報道されていましたが、特に、「最終的には自分自身を信じること」という言葉が私の耳には残りました。オリンピックに限ったことではありませんが、実力だけではなくメンタル面の強さも求められる状況下では、「自分自身を信じること」が大切であり、自分を信じるためには「自分自身を受け入れる」ことが求められるのではないでしょうか。
 「自分自身を受け入れる」ことができる背景には、自分を自分でどのように見ているのか、つまり、「自己評価」が関わっていると思います。私は、大学学部時代から現在に至るまで、@自己評価の形成に影響を及ぼす要因は何か、A自己評価はどのような発達経過をたどるのか、B自己評価は学校適応や精神的健康にどのような影響を及ぼすのかといった「自己評価の機能」に関心をもって横断的・縦断的に観察研究および調査研究を続けています。最近では、2002年度と2003年度の2回、都内の公立中学に通う中学1年生から3年生約400名の男女を対象として自己評価と精神的健康に関する質問紙調査を行いました。その結果2002年時に親子関係や友人関係といった「対人関係に関する自己評価」が低かった生徒は、2003年時の学校での孤立感や学校での反抗的な気分といった「学校での不適応感」が高かったことが示されました。また、対人関係での躓きを感じている生徒の多くが、「自分のことが好きになれない」傾向を示していました。つまり、自分自身を受け入れることができにくく、対人関係に関する自信が持ちにくいと、精神的健康度が低下する傾向が示されたものと考えられます。このように、自己評価の機能に注目した研究を行うことで、子どもたちの不適応状態の早期発見・早期介入に役立つ研究を続けていきたいと思っています。
 ナンバー1ではなくオンリー1になることへの良さが再確認されている昨今ですが、やっぱり「金メダルがいいよね」といったナンバー1思想はどんな世界にもついてまわると思います。目指していた結果が得られなかった時に、その状況から気持ちを切り替える際の原動力として「自分のミカタ味方な自分のミカタ見方」ができると、目の前の結果だけにとらわれず、長い目で目標を見据え、周囲の人々に感謝しながら楽しく生きていけるのではないだろうかと、オリンピック選手たちの勇姿を見ながら物思いに耽る2004年の夏でした。


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