【報告】
論文審査に関するアンケート調査の結果報告
機関誌編集委員会 酒井久実代(北海道教育大学)・首藤敏元(埼玉大学)

アンケート調査の目的と方法
 機関誌常任編集委員会では「性格心理学研究」「パーソナリティ研究」に論文が掲載された著者を対象に、論文審査についてのアンケートを実施しました。その目的は、これまでの論文審査のプロセスを評価し、今後の参考にしていきたいと考えたからです。また、論文審査についての肯定的な評価があればそれを会員に広く知らせること、また否定的な評価に対してはそれを改善していくことが、より多くの会員からの論文投稿を促すことになると考えました。それにはまず論文投稿者の率直な意見を聞くことが大事だと考え、無記名のアンケートを実施することにしました。その結果をご報告いたします。
 2001年の10巻1号から2004年の12巻2号までに「性格心理学研究」「パーソナリティ研究」に論文が掲載された著者66名に調査用紙を発送し、30名から回答が寄せられました(回収率45.5%)。
審査に対する肯定的意見
 まず、論文の審査委員のコメントについての総合的満足度を4段階で評定してもらったところ、「非常に満足」…11、「やや満足」…18、「やや不満」…1、「非常に不満」…0、という結果でした。また投稿したいと思うかについては「投稿したい」…26、「投稿したくない」…3、「その他」…1、という結果でした。著者の論文審査についての評価はおおむね肯定的なもので、また投稿したいと思わせるような内容だったようです。それでは次に、どのような点で審査に満足しているのかを、アンケートの自由記述から見ていきたいと思います。
 一般的には学会誌に論文を投稿するということは、自分の論文を評価されるというイメージが強くあると思います。しかし「パーソナリティ研究」に論文を投稿した著者からは、評価されること以上に、論文の書き方の勉強をすることができたという反応が多く見られました。どのような点が勉強になったかというと、「限られた字数の中で何をどう取捨選択するか」「統計分析・データの扱い方」「図表の呈示のしかた」「参照すべき文献」「著者も気づいていなかった考察の視点」「英文アブストラクトの案」などです(「」内は著者の自由記述)。これらの点について審査委員からの指摘をもとに修正することにより、自分の論文が非常に良くなったという回答も多く見られました。たとえば「序論や考察など、かなり洗練された」「建設的なアドバイスが多く、より良いものにすることができた」「当を得た有意義な指摘がいただけ、よりよいものにするために有益だった」「論文の質が向上した」「論文としての内容は高められたと思う」ということです。また「修正を繰り返すプロセスは苦しいものだが、成長することができた」という反応も見られました。これらの反応から、論文を投稿し、審査委員からの修正要求に応えていく過程が、著者にとって研究論文を書くことの実践的な勉強の場になっていること、また著者は最終的に自分の論文をより良いものにすることができ、達成感や満足感を得ていることがわかります。
 また、一般的に学会誌に論文を投稿すると厳しいコメントがかえってくるのではないかと不安をもつ人もいると思いますが、アンケートの結果からは担当委員(審査委員の代表)が著者にサポーティブに対応してくれたので支えになったという反応が多く見られています。具体的には「担当の先生が投稿者と一緒に作っていくという雰囲気があった」「より良い論文にしようとする審査者の姿勢が感じられた」「サポートする姿勢がとてもありがたかった」「誠実な姿勢がうかがわれ、精神的に助けられた」「読みにくいものだったと思うが根気よくつきあってくれた」「他と比べ高圧的でない」などです。これらの反応から、担当委員のサポーティブな対応が著者を励まし、論文修正の過程の大変さを乗り越えさせる一つの要因になっていることがうかがえます。
 次に審査委員のコメント内容とは別に、審査システムについての意見もいくつかご紹介したいと思います。「パーソナリティ研究」では審査者の中から担当委員を一人決めて、著者とメールのやりとりをしながら論文の修正過程を支えていきます。そのシステムについて肯定的な反応が見られました。たとえば「何かあったら相談できるというシステムは心強い」「やりとりがしやすかった」「手間と費用が少なくてすむのでよい」「明瞭、迅速でとても良い」などです。担当委員との個別のやりとりができることによる安心感、メールでの連絡を取り入れることにより連絡がしやすいなどの点が評価されているようです。また、「審査期間が短くて、助かった」「やりやすかった」という意見も多く見られました。
 また投稿したい理由としてあげられたのは、「領域が合致している」がもちろん一番多かったですが、それ以外に「査読に対する印象が良い」「コメントが建設的で、審査が迅速」「審査システム、コメントなどが納得できる」といった意見も見られました。審査に対する好印象がまた投稿したいという気持ちを起こさせている一つの要因になっているようです。その他には、「ショートレポートは気楽に投稿できる」「領域的に広い」「レベルも高い学会だと思う」「学会費がリーズナブル」などの意見もありました。これらの理由で、回答者の8割以上がまた投稿したいと考えているということです。
否定的な意見と編集委員会のコメント
 さて、ここまでは論文審査に対する肯定的な評価を中心にみてきましたが、少数ですが否定的な評価も見られますので、それをご紹介し、またそれに対する編集委員会のコメントも合わせて示していきたいと思います。
 まず審査委員のコメント内容で悪かったとしてあげられたのは、複数の審査委員の修正指示の間に不一致が見られるために、どの修正に従って修正すれば良いかがわからなかったというものです。これに対しては編集委員会では次のようにお答えします。「相矛盾する意見がある場合、担当委員は、著者が混乱しないよう、できるだけコメントを整理して修正要求をまとめることになっています。しかし、再審査評価の論文の場合、著者のオリジナリティを尊重するために、担当委員はあえて方向性を示さないこともあります。採用しなかった意見に対して、修正対応表の中で、その理由を述べていただければ結構です」。また「基本的な用語を理解されていなかったようで、細かい説明を加えなくてはいけなかったのがしんどかった」という意見もありました。→編集委員会「著者は分かっているつもりの用語でも、分野外の読者には分かりにくいことがあります。特に、心理学では用語の概念定義が重要になります。分かりやすい論文にするためでもありますので、あえて説明を求めることがあります」。「想定以上に厳しい評価が下されたことがある。」という意見も見られました。→編集委員会「研究の枠組みが定まっていなかったり、そこに問題がある場合は、再審査ではなく不採択を判断することがあります。これは研究の意義を否定するのではなく、研究の枠組みという著者のオリジナリティを期待するためでもあります。」
最後に
 今回は「採択」になった論文の著者を対象に調査を実施しました。当然サンプルは偏っています。「取り下げ」や「不採択」になった論文の著者はより厳しい意見を持っているかもしれません。しかし、「取り下げ」や「不採択」になった論文が、加筆修正を経て、再度投稿されてくることも珍しくないことも追記しておきます。来年からは電子投稿も可能になります。今後も迅速でサポーティブな審査を維持し、「パーソナリティ研究」に質の高い論文が多数掲載されるよう努力していきます。
 会員のみなさん、どうぞ投稿してください。


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