ミニ特集 現場からみたパーソナリティII
サッカーにとりくむ子どもたちの個性
梅崎高行(九州ルーテル学院大学)


 従来スポーツの現場では、スポーツ種目やポジション別に適した性格が(あるものとして)議論されてきた。指導の現場では、これら知見を指導に活かすこともできるが、一方で、知見が'選抜'に用いられることへの恐さも大きい。どんな個性の持ち主も、スポーツを楽しむ権利がある。またスポーツへのとりくみを通し、彼らの個性が育っていく側面も忘れてはならないと思う。
 筆者は大学で、サッカー指導者資格取得を目指す学生の指導に携わっている。学生にとっては指導の経験が、何よりの学びである。そこで地域の子どもたちを対象に、サッカースクールを開講した(平成16年5月〜)。現在100名ほどの子どもたち(園児から小学6年生)が参加してくれている。個性豊かな子どもたちに、指導者のたまごが苦戦する様子を見ているのは楽しい。
 さて、平成16年度のサッカースクールが何とか無事に終了した現在、養育者を対象に実施したアンケートを分析している。そこには「サッカーを通じてこんな子どもに育ってほしい」といった願いが様々に記されている。たとえば、「集団スポーツを通じて友だちと協調する態度を身につけてほしい」や「最後まで頑張り抜く意欲を養ってほしい」などである。指導の場としては、サッカーに必要な技術を子どもたちに身につけてもらうことが第一義であるが、同時に、親たちが願う心の領域も、スポーツの現場が扱うべき課題だといえる。そうした願いを踏まえ、来年度のサッカースクールについて検討を重ねる中で出てきたキャッチフレーズは、「サッカーを子どもたちのきっかけにする」である。このフレーズには、指導者側の、子どもたちの個性と可能性を応援し、育てる存在としての心構えを込めている。
 さらに、そうした大人たちの願いを実現する地域スポーツのあり方を広く適用可能なモデルとして提出すべく、子どもの家庭や学校と連携した長期的な調査を計画している。スポーツの現場がいかに役割を果たすことで、スポーツを楽しむ個性に富んだ子どもたちの権利を保証できるのか。また、スポーツを通して子どもたちの個性をより充実させていけるのか。調査は、そのための必要性に応じて場を改善するアクション・リサーチ的展開となる予定である。成果について、学会大会等でも発表できればと考えている。
 現在、自閉性を強める子どもが増加しているとの指摘もある。そうした'個'にこそ、個性がせめぎ会う社会の中で、自らの'個'に気づき大切とできるような機会が求められるだろう。では、いかにして筆者らのサッカースクールは、また広くスポーツの現場は、'個'が輝きを増しながら展開していく機会の一つとなれるのか。今後も可能性を模索していきたい。


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