【ミニ特集 国際研究の裏話】
トルコ共和国における調査旅行体験記
中村 真(川村学園女子大学)


 筆者は、2001年9月および2004年11月の二度にわたり親子関係に関する国際比較調査を実施するためにトルコ共和国を訪問した。この調査旅行は、中里至正教授(東洋大学)と松井洋教授(川村学園女子大学)を中心とする共同研究の一環で行われたものであり、調査対象者は都市部のイスタンブールおよび郊外のチャナッカレにおける中高生とその両親であった。
 トルコでの調査旅行を通じて特に印象に残ったのは、何といっても、家庭と学校が調査に協力的なことである。質問紙を携えて調査校を訪問すると、ほとんどの学校で校長先生ご自身が私たちをチャイ(トルコのお茶)で歓待してくれるとともに、中には、授業を中断してすぐに調査を実施し、即日回収させてもらえるケースもあった。また、質問紙を生徒に持ち帰ってもらい、後日、学校で回収するという方法で親を対象とする調査を行ったところ、回収率は実に95%以上におよんだ。
 一方で思わぬアクシデントにも直面した。トルコでは、日本の教育委員会に相当する教育庁の権威が大変強く、公立学校で調査を実施するためには、当該地域を管轄する教育庁の許可が不可欠である。2004年のチャナッカレでの調査では、事前に調査実施の依頼を終え、現地を訪問した際に教育庁で許可書を受け取る手筈になっていた。しかし、何らかの手違いにより許可申請が教育庁トップに届いておらず、調査実施が危うくなってしまった。そこで、チャナッカレの教育庁に赴き数時間にわたって直接陳情したところ、幸いにも、事情を理解してくれた教育長が、通常なら数日かかる手続きを省略し、その場で許可書にサインをしてくれた。
 驚いたのはその後で、その許可書はチャナッカレ教育庁管轄内にある全ての学校に有効なものであった。事態は一気に好転し、何と!どの学校でも調査可能になったのである。一時は、調査の中止や延期も覚悟しただけに、この時の喜びを忘れることはできない。もちろん、私たちは希望する学校で無事に調査を終えることができた。
 これらの体験の背景には、トルコの人たちが親日的であること、教育庁や学校が威厳を保っていること、日本に比べて組織運営がおおらかであること、そして、(私たちの調査でも明らかになっているが)トルコの親子関係が親密であること、などが影響していると思われる。いずれにしても、さまざまな事情から親はおろか教育現場で生徒を対象に質問紙調査を実施することさえ難しくなっている我が国の現状を考えると、トルコでの体験は驚きを超えて感動に値するものであった。近藤幸子先生をはじめトルコでの調査に協力して下さった全ての方にあらためて感謝の意を表します。


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