【研究余滴】
国際交流をするには?
金子一史(名古屋大学発達心理精神科学教育研究センター)


 私にとっての国際交流は、思いがけぬ形でやってきました。私が所属している名古屋大学発達心理精神科学教育研究センターには、客員教授のポストがあります。私が大学院を修了して、現在の職場に助手として就職したのは3年前です。それからというもの、イギリス・オーストラリア・南アフリカ・スウェーデン・ウルグアイの5カ国から、客員教授がやってきました。皆さん3ヶ月から半年ほど、名古屋に滞在することになります。
 最初に来たのは、イギリスの周産期精神医学の専門家で、バーミンガム大学名誉教授のIan Brockingtonさんです。もうすぐ70歳になるというのにパワフルで、こっちがあっけにとられるぐらいです。日本で中古のマウンテンバイクを買い、飛行機の手荷物にその他の荷物と一緒に持ち込んで帰国しました。オーストラリアからは、児童精神科医でクイーンズランド大学名誉教授のBarry Nurcombeさんが来ました。彼は日本マニアで、黒澤明や小津安二郎の映画を絶賛していました。三島由紀夫の金閣寺を私が読んだことがないと知るや、「どうしてですか!」と嘆いていました。他の3人も非常に個性的で、とてもおもしろい人達です。
 現在の職場に、助手は基本的に私一人なので、世話は全部自分がやらないといけません。世話の内容は、本当に生活に関することです。銀行口座の開設に付き添ったり、買い物に適当なスーパーを教えてあげたり、時には一緒に買い物について行きます。とにかく外国で生活するのは大変ですから、最初はいろいろと手がかかります。でも、しばらくすると生活になれてきて、私が全部お世話をする必要がなくなってきます。
 さて、客員教授と接して気づいたことは、“国際交流をするには、まず自分の国を知っている必要がある”という事です。会話は、だいたいお国事情になります。「ウルグアイの人口は〜万人で、そのうちの〜%は貧困層なんだ」という話をしている時に、日本はどうなのかと聞かれても、答えられないのに気づきました。その他にも、日本の都市部と山間部の面積の割合はどれくらいなのか、日本に大学はいくつあるか、進学率はどれくらいか、日本の税率は何%か、失業率は何%か、不登校は何%か、児童虐待はどれくらいか、日本の医療システムはどうなっているのか。
 日本人とだけ関わるなら、これらのことを説明する必要はありません。しかし、日本人以外と関わる時は、日本のことを説明しないといけなくなります。外国の人に日本を説明している時は、同時に自分も日本を再発見しているのかもしれません。私は、これまであまり小説には興味がなかったのですが、最近、三島由紀夫の金閣寺を買って、少し読み始めました。今度Nurcombeさんと会った時には、金閣寺の感想を伝えてみようと思っています。


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