Japan Society of Personality Psychology

書評『社会的状況とパーソナリティ』

書評執筆者:杉山憲司
 B.クラーエ(著)堀毛一也 (編訳) 1996
『社会的状況とパーソナリティ』北大路書房A5判 367頁
(Barbara Krahe 1992 "Personality and social psychology: Towards a synthesis." London Sage Publication.の全訳)
書評の文責は書評執筆者となります

《著書の内容紹介》
 本書は9章から構成されている。
・パーソナリティ心理学と社会心理学の関連性についての諸立場と本書の観点に始まり、
・パーソナリティの一貫性をめぐる60年間にわたる論争の紹介、
・特性論を中心とする新たな研究動向、
・人間−状況の相互作用論的視点と、向社会的行動など3つの典型的な相互作用論に基づく実証的研究の紹介、
・パーソナリティ測定法の改善と個性記述的な方法論の再導入、
・パーソナリティ研究における状況研究の重要性と展望など、
これまでの性格心理学のテキストであまり触れられてこなかった最近の研究動向が巧みにまとめあげられている。
 各章末には担当訳者による訳者解説が付されている。

《読後の批評》
 一読した印象では、新相互作用論などの視点や研究法が随所に指摘されていて、パーソナリティ研究の転換点となるかもしれないと感じさせる刺激的な本である。
堀毛氏は訳者まえがきで、本書を訳出した理由として、
(1)一貫性論争の全体像を理解する格好の入門書
(2)状況へのアプローチの仕方のさまざまな解説
(3)それらが今後の研究への大きな可能性を占めている
との3つを挙げておられるが、正に同感である。
 章末の訳者解説は8人の訳者それぞれのこの本に対する視点が違っているのが瞥見でき、パーソナリティ研究に対するスタンスが見て取れて面白い。
 私個人としては、かねがね心理学は未だ状況認識論を持っていないと考えていたが、場面や状況の捉え方を早く確立せねばならないとの印象を強く持った。
何れにしても、研究の発展が新視点と新たな研究法の獲得にあることを考えると、本書の一読を薦めたい。

《編訳者からの一言》
 会員の先生方のご協力をいただきなんとか訳出することができました。
 原著者も述べているように、この本が「開拓精神」に満ちた研究を生み出すきっかけになれば幸いです。それは同時に自分たちにもあてはまることで、頑張らねばという気にさせられます。
どうぞ忌憚のない御批評をお寄せください。
 最後になりましたが、御講評いただきました杉山先生に、深く御礼申し上げます。
編訳者:堀毛一也(東北福祉大学・日本性格心理学会会員:QGB03376@niftyserve.or.jp)
共訳者:
  和田さゆり
  若林明雄
  本間恵美子
  渡邊芳之
  尾見康博
  佐藤達哉
  堀毛裕子

書評者:杉山憲司(東洋大学・日本性格心理学会会員)
1996年8月7日受理
   


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