若手研究者研究紹介3:
奥村泰之(日本大学大学院文学研究科心理学専攻)

 

 第3回は,若手研究者の奥村泰之先生にご自身の研究をご紹介いただきます。


1990年から2006年の日本における抑うつ研究の方法に関する検討
日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程
奥村泰之

研究を始めた動機
 日本大学の奥村泰之と申します。小堀修先生より「自己アピールができて、就職活動にも役立つよ」と唆されまして、今回担当させて頂くことになりました。さて、たった冒頭の一行からもにじみ出ているように、私は一言で申しますと「打算的 (広辞苑によると、物事をするのに損得を考えて取りかかるさま) な人間」です。表題の研究では、1990〜2006年に日本で出版された雑誌から974の研究を抽出して、研究法をコード化することにより、どのような方法で抑うつ研究が蓄積されているかを明らかにしようとしました。自己紹介をかねて、「研究を始めた動機」から、「今後の展望」までお話しさせて頂きます。

 さて、打算的な人間である私が研究テーマを決定する際、「お金」が一番大事な判断材料になります。周知のように、精神医療を対象にした場合、もっとも国民のお金を使用している疾患は「うつ病」になります。次に、打算的であるために、「より多くの方に役立つ研究をしたい」という観点がおのずと持ち上がります。このような思考過程により、「うつ病の研究法」に焦点を当てた展望をすることに至りました。なぜなら、(1) プロである以上、ほとんどの研究は、何かしらのお作法にのっとって研究をしていますし、(2) 研究法を一歩間違うと、研究結果を無意味なものに導いてしまうためです。言い換えると、研究テーマを、「うつ病の研究法」にすることにより、多くのうつ病の研究者と、さらに、間接的にうつ病を患う方に役立つことが可能になると思い、日本における抑うつ研究の方法を展望しようと思いました。

試行錯誤
 この研究を始めたのは2003年の10月、終了して印刷されたのは2008年の2月でした。つまり、4年以上を要してしまったという、仕事の遅さでした。打算的な人間である私にとって、多大な時間をかけてしまうことはナンセンスなことです。それではなぜ、このような時間を要してしまったのかを述べたいと思います。

 第1に、研究をすることは一人では不可能であるという、あたりまえな事実があります。この研究は、共著者4名、謝辞8名の人材を投入して研究しました。謝辞に載せた方々でも、100時間程度のご協力を頂いています。それなりの時間、ご協力を頂くということは、第1著者の私も、情報共有に多大な時間を要しています。たとえば、(1) 実験と調査の違いなどを説明するために要する時間、(2) データベースを作成し、そこに登録する作業の手順をマニュアル化する時間などです。多くの人間がかかわる以上、情報を共有して、全員が最低限の知識を持つことは、言葉にすることが難しいほど労力を要しました。

 第2に、実質的な私の処女作は、この研究であるということです。処女作というのは、緊張が過度にあるためか、「力み」「無駄」「理想の追求」など、様々な、執筆を阻害する要因が絡んでしまいます。力むこと自体は悪いことではありませんが、論文を出したいのであれば、良くも悪くも、「開き直り」や「あきらめ」が必要になってしまいます。「Publish or Perish」という有名な格言があり、それを重々理解はしてはいましたが、処女である私にとって、多大な労力を投入すればするほど、執筆を阻害する認知が出てきてしまうのは、致し方ないことでした。

今後の展望や最終目標
 このままでは、単なる苦労話で終わってしまいます。「若手研究者の紹介」なのに、「苦労したね」「打算的なんだね」という印象しか残らないことは遺憾です。そこで最後に、今後の展望と最終目標を述べて、締めたいと思います。

 打算的な私は、少しでも、多くの方に役立つ研究をしたいと思っています。今取り組んでいる研究は、受診行動や尺度構成の研究ですが、研究テーマを変更することが、今後も多くあると思います。しかし、どのような研究テーマに変更しようとも、絶対に変更したくない意志は、以下の3つです。

(1) 多くの人に役立つこと。
(2) 多くの人の協力を得て研究をすること。
(3) 研究結果は公表すること。
 (1) は、打算的だから変えたくない意志です。(2) は、(1) の必要条件だと思っています。(3) も、(1) の必要条件ですが、それだけではありません。公表の形式は、研究者である以上、論文が基本になりますが、可能な限りインターネット上でも公開したいという意志を持っています。すべての研究者 (論文を書いたことがない大学院生をも含む) は、国からの何らかの援助を、間接的・直接的に受けていますので、生産している情報を、何らかの形で、納税者に還元する義務があると思っています。そのような意志から、「無料統計ソフトRで心理学(http://blue.zero.jp/yokumura/R.html)」というHPなどを作成して、公開しています。

 最後に、若手研究者の紹介の読者は、「若手」だと思いますので、「若手」のみなさまも、御自身の生産している情報の公開に御協力願えれば、打算的な私は、この仕事を承諾した利益を得られたと思えます。

 
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