若手研究者研究紹介10:
大山 智子(白百合女子大学生涯発達研究教育センター)

 

 第10回は,若手研究者の大山智子先生にご自身の研究をご紹介いただきます。大山さんは白百合女子大学生涯発達研究教育センターで,中学生の共感性の発達と向社会的行動との関連について研究を行われています。ここでは,大山さんが現在の研究のきっかけとなったこと,現在までの研究成果,今後の展望などについて ご説明いただきました。


中学生の共感性の発達と向社会的行動との関連

白百合女子大学生涯発達研究教育センター
大山 智子

はじめに
 私が研究を始めたきっかけは、スクールカウンセラーとして公立中学校に勤務するなかで湧き起こった危機感によるものでした。修士課程で発達心理学を学んだ後、子どもの臨床に携わる仕事を続けていた私自身、研究を始めようなどとは夢にも思っていませんでした。それまでは、臨床現場で必要なスキルを身に付けていくことに必死でした。しかし中学校勤務は私の視野を大きく広げてくれる契機となりました。<今の中学生>のありのままの姿を目にする機会ができたからです。私は<毎日の中学校生活を順調に送っている>かに見える生徒達が<非常に不健全と思われる内面>を垣間見せたことに驚きました。そこで痛感したのは、今の中学生たちに円滑な対人関係を築くのに必要な共感性が育っていないこと、そのような共感性を育成する心理教育が充分に行われていないことです。お互いを思いやり、助け合う向社会的行動に結びついていく成熟した互恵性、利他性を育てることに手を尽くさないままに、さまざまな不適応行動として表面化する思春期の子どもたちの問題に対処するのみでは対処療法に甘んじることに留まり、根本的な解決に至らないのではないかと感じました。  子どもたちは、結果的に対人関係の軋轢からストレスを多く抱え、その閉塞感から利己的思考を増長させることによってさらに対人関係の問題を増幅させていくという悪循環のなかにあるように見えました。そこで、利他性に結びつくような共感性をどのように育めばよいのかを研究するための歩みとして、まずは中学生の共感性の発達を研究することを志し、大学院の博士課程の門を叩きました。


中学生の共感性の発達と向社会的行動との関連
 中学生の共感性を質問紙法で自己志向的共感性、他者志向的共感性などいくつかの側面から多次元的に捉えて発達を検討するために、3時点の縦断調査によって経年比較を行いました。また、多次元的共感性と向社会的行動との関連をモデル図によって示し、モデル図に経年差がみられるかについての検討を行いました。モデル図では、向社会的行動への促進要因として影響が示された他者志向的共感性の側面が、経年によって減少しました。ここでの他者志向的共感性の側面とは、他者の状況や感情体験に対して自分も同じように感じ、他者志向の暖かい気持ちをもつ<共感的関心>とされる側面です。一方、自己志向的共感性の側面は向社会的行動への抑制要因として影響を示したものの、経年によってその影響が示されなくなりました。ここでの自己志向的共感性の側面とは、助けを必要としている他者を見たときなどに自分が不安になってしまい、他者の状況に対応した行動をとることができない<個人的苦痛>とされる側面です。日ごろ対人関係の悩みを訴える中学生に、自己中心的視点から逸脱できずに不安感が高く、心理的に過敏な反応を起こしやすい、ネガティブな感情のコントロールが苦手なタイプが少なからずみられます。このような人は<個人的苦痛>の高いタイプではないかと思われました。共感性の発達理論では自己志向的共感から他者志向的共感へと移行していくとされます。自己志向的共感性である<個人的苦痛>が他者志向的共感へと発達していく過程に関与する要因、または個人的苦痛の感情を適応的な制御へと導く要因について検討していく必要があると考えられました。


今後の課題
 特に児童期以降の共感性の発達は従来の研究でも実証的知見があまりみられません。今後、共感性を育てる要因について個人の発達の過程を詳細に見ていくアプローチも交えながら研究をおこなっていきたいと考えています。  また、これまでは中学生を対象に向社会的行動に寄与する共感性の研究という狭い枠組みで研究をおこなってきましたが、今後は私たちが日常で関わる人との関係を向上させること、さらには人々の対立や争いを起こすことのない相互の幸福の追求を目指すことを考えながら、より視点を広げた研究に向かって一歩一歩あゆんでいきたいと思っております。研究を導いてくださった様々な方々からの贈り物を熟成させつつ、これからは多様な分野の方々からもご助言を頂いて研鑽を積んで参りたいと願っております。最後に、このような機会を頂きましたことを心より感謝申し上げます。

 
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