若手研究者研究紹介33:
市村 美帆(目白大学人間学部)

 

 第33回は,若手研究者の市村美帆さんにご自身の研究をご紹介いただきます。市村先生は現在,目白大学人間学部に所属され,自尊感情の変動性のご研究をされています。ここでは,研究を始めたきっかけや研究の具体的な内容,今後の展望についてご説明いただきました。


自尊感情の変動性に関する研究

目白大学人間学部
市村 美帆

研究のきっかけ
 「心理学者は自分が抱いている悩みを研究テーマにする」と言われることがありますが,私も大学生のころに,自身が抱えていた悩みを研究しています。当時の私は,とにかく自分に自信がもてず,何をするにも不安を感じていました。ただ,気づくと,そうではないことがありました。それは,誰かに必要とされたとき,好意をむけられたとき,感謝されたときなど,様々な出来事を経験したときでした。このような出来事を経験すると,嬉しいといったポジティブな感情とともに,自分の存在に意味があるような感覚から自分にわずかな自信をもてるような気がしたのです。
 当時,研究だけではなく,どんなことでも話を聞いてくれていた指導教員の先生に,この話をしたとき,「自尊感情は他者から受容されている程度および拒否されている程度を監視するシステムである」と捉えるソシオメーター理論を教えていただきました。自尊感情は「はかり」であり,人から受容されていると感じると,自尊感情が高くなり,拒否されていると感じると,自尊感情が低くなるというイメージができたとき,「これだ!!」と思ったのが,すべてのはじまりでした。日常生活の様々な出来事によって,自尊感情が揺れ動く人とはどのような人なのか,それを明らかにしたいと思いました。

研究状況
 研究は,自尊感情が日々変動していることを実際に測定するところから,スタートしました。具体的には,同一対象者に7日間1日1回,自尊感情の測定を行い,対象者ごとに自尊感情の変動グラフを作成しました。そのために,状態自尊感情尺度や,同一対象者に複数回調査を実施する手法を開発しました(何より大変だったのは,7日間の測定に参加してくれる対象者を集めることでした)。
 次いで,自尊感情の変動グラフをもとに,平均的な自尊感情の高さ(個人内平均値の高低)と,自尊感情の変動しやすさ(個人内標準偏差の高低)の2側面から4群を構成し,各群の心理的特徴を検討しました。各群は,自己に対して望ましい自己像を抱いているか否かで異なり,その自己像をよいものにしたいのか,維持したいのか,関心がないのかといった自己に対する目標でも異なっていました。そのため,日常生活で生じる様々な出来事を経験した際に異なった反応をし,心理的適応・不適応の特徴にも違いがあることが明らかになりました。

今後の展望
 自尊感情の変動性研究については,概念や測定の問題,自尊感情の高さと変動性の2側面による4群の心理的特徴の未検討点など,数多くの研究課題が残されています。今後も継続的に取り組んでいきたいと考えています。
 また,私は社会心理学的アプローチから研究を行ってきましたが,周辺領域の視点からも検討することが可能であると考えています。たとえば,発達的な視点からの検討があげられます。研究をはじめた頃の私の自尊感情は低く不安定なものでしたが,現時点の自尊感情は高く安定したものに変化しているように感じます。自尊感情は日常生活の様々な出来事によって変化していると同時に,それらの経験の積み重ねや,学校への入学・卒業,就職,結婚,出産・育児など,生活を大きく変化させる出来事などによって,長期的な変化が生じ,個人の自尊感情の特徴が変わると考えます。このように,自尊感情の変動性の研究視点を踏まえ,短期的な変化だけではなく,長期的な変化についても検討していきたいと考えています。また,臨床的な視点から検討することも可能だと考えられます。自尊感情の変動グラフは,研究データとしての価値だけではなく,調査に参加してくれた対象者が自身の特徴を知る手がかりの1つとなります。7日間の測定後に,測定グラフを用いて面接調査を行ったところ,対象者に新たな気づきがありました。心理的介入への応用についても検討していきたいと考えています。
 現在は育児中心の生活をしており,研究活動の時間が限られておりますが,このような貴重な機会をいただき,改めて自身の研究に向き合うことができました。関係者の皆さまと,最後までお読みいただいた皆さまに心より御礼申し上げます。研究に興味をもってくださった皆さま,研究へのご意見やご助言などいただけましたら幸いです。今後とも何卒よろしくお願いいたします。



Homeへ戻る 前のページへ戻る
Copyright 日本パーソナリティ心理学会