若手研究者研究紹介37:
二村 郁美(名古屋大学大学院教育発達科学研究科・日本学術振興会特別研究員DC)

 

 第37回は二村郁美先生にご自身の研究をご紹介いただきます。二村先生は現在,名古屋大学大学院教育発達科学研究科・日本学術振興会に所属され,向社会的行動について幅広く研究されています。ここでは,研究をはじめたきっかけや現在の研究の状況,今後の研究の展望についてご説明いただきました。


向社会的行動に対する認知の発達に関する研究

名古屋大学大学院教育発達科学研究科
日本学術振興会特別研究員DC
二村 郁美

研究のきっかけ
  私は「思いやり」に関する研究を行っています。私が「思いやり」について興味を持ったのは,中学生ごろのことでした。電車に乗っていて,お年寄りに席を譲っている人をみかけることがある一方で,少し詰めれば2人座ることができるスペースの真ん中に座り続けている人をみかけることもありました。そのような中で,「みんながお互いに思いやりを持って接すれば,気持ちのよい社会になるのではないか」と,素朴な考えを持ったことが,「思いやり」研究のきっかけでした。
  しかし,大学に入り,思いやりに関する学びを進めるにつれて,思いやりの気持ちを持って,それを行動に表し,結果として相手のためになるということがいかに難しいことかを実感するようになりました。そこから,思いやりについてどのような視点から研究を行えばよいかについて,試行錯誤する日々を過ごしてきました。

これまでの研究
  博士前期課程で私が研究テーマとしたのは,「向社会的行動をとりたくてもとれない」現象です。向社会的行動とは,「他者のためになることを意図した行動」を表す概念です。目にみえる側面としては,同じ「行動をとっていない」という形であったとしても,その背景にある理由としては,「行動する必要がない」や「行動したくない」というものだけではなく,「行動したくてもできない」というものもあります。それらの背景に応じて,行動につなげるために必要なはたらきかけも異なり得るため,両者を区別して理解することが重要だと考えました。
  そこで,まずは日常的な向社会的行動場面で人びとが経験している感情や認知,行動などについて,面接調査によって検討することにしました。その結果,向社会的行動をとりたくてもとれない時には,周囲から注目されることに対する懸念が多く経験されていることが示されました。この結果を踏まえ,次に,周囲から注目されることに対する苦手さに関わる個人要因であるシャイネスが,向社会的行動にどのような影響を持つかについて,質問紙調査によって検討しました。その結果,シャイネスが高い人は,向社会的行動をとる意図はあるにも関わらず,その意図が実際の行動につながりにくい可能性が示唆されました。今後このテーマについては,機会頻度を統制したり,場面設定や測定指標を変更したりすることで知見を蓄積し,向社会的行動をとりたくてもとれない経験をしている人が,行動しやすくなるような環境のあり方を探る方向へ進めていきたいと思っています。

現在の研究
  前期課程の研究において得られた知見からヒントを得つつ,現在は,向社会的行動について少し異なる視点からアプローチしています。従来の研究では,概して,向社会的行動はポジティブなものであり,他者からもポジティブに評価されるものと考えられてきました。しかし,前期課程に行った研究からは,人びとが必ずしも常に向社会的行動がポジティブに評価されるという認識を持っているわけではないことが示唆されました。実際には向社会的行動には,援助,分与,協力,慰めなどの様々なものがあり,それらが多様な文脈の中で行われたり行われなかったりすることになります。そのように考えると,それぞれの向社会的行動に対する人びとの「よさ」の認識のあり方や,それぞれの向社会的行動が持つ社会的な意味は,一通りではないように思えます。この「様々な向社会的行動に対してどのように認識するか」ということは,その人たちが向社会的行動をとろうと思うかどうかの意思決定にも影響する重要な要因だと考えられます。さらに,向社会的行動に対する認識のあり方は,発達的に変化すると考えられます。子どもから大人にかけて,向社会的行動に対する認識のあり方がどのように変化し,そのことがどのように行動に影響し,どのような意味や機能を持つのかということについて,現在研究を進めています。

  最後に,このような貴重な機会を与えてくださいました日本パーソナリティ心理学会関係者の皆様ならびに,拙稿をお読みいただいた皆様に心より御礼申し上げます。



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