インタビュー企画9:山岡重行(前半)

 第9回は聖徳大学の山岡重行先生にインタビューをいたしました。これまで山岡先生は,ユニークネス欲求や3次元自己制御などに関するご研究をなさっておられます。今回は現在の研究との出会いからパーソナリティ研究の魅力まで,幅広くお話を伺いたいと思います。

■ 現在までの研究

―――まずはじめに,山岡先生のこれまでの研究歴について教えていただけますか?

 ユニークネスを卒論以来ずっと研究しています。ユニークネス欲求の測度であるユニークネス尺度を作ったりしました。ユニークネスがらみの研究が私の研究の本筋ということになります。「俺はあいつらとは違う」というユニークネスの逆位相として,「あいつは俺たちとは違う」という意識から生じる差別の問題に興味を持ち,血液型性格なんかの研究もしています。

―――血液型性格というのは比較的近年の話ですか?

 11年くらいやっています。もともとは学生にウケるネタとして授業の中で話を始めたのですが,その中でもっと面白い話をするために必要なデータを自分でとりはじめました。1999年から今年まで,断続的に11年調査をしています。そのデータを今年のパーソナリティ心理学会で小講演みたいな形で発表したいと思っています。11年分で有効回答は6660です。血液型性格に関して,これだけのデータを持っている人はいないんじゃないかなと思っています。

―――11年分の蓄積をきかせていただけるということですね。

 そうですね。それと,血液型性格以外に恋愛研究もやっています。女子大にいるもので,卒論何やりたいという話になると,恋愛研究をやりたいという要望が結構あります。でも恋愛研究はすごくたくさんありますから,いろんな人の研究を読まなくてはいけない。それは学生も大変だし私も大変。それじゃ人のやっていないところをやろうという話で,恋人の欠点とかダメ恋愛の研究を始めました。対人魅力研究の目的の一つは「こういうことをやると人から好かれるよ」っていう魅力の源泉を明らかにすることなのだと思います。でも誰にでも欠点はあるわけです。その欠点とどう付き合うか,恋人の欠点という方向の研究を,7-8年前から連続して研究しています。
 その恋人の欠点の話をしているときに,自分はダメな男性とばっかり付き合ってしまう,っていう学生がいたんです。じゃ,「なんでダメ恋愛しちゃうんだろうね」っていうことで,5-6年前からダメ恋愛研究にシフトしていきました。なぜ欠点の多い恋人を好きになってしまうのか,恋愛関係を壊すような行動をなぜしてしまうのか5-6年研究しているうちに,ダメ恋愛しちゃうのは不安定なロマンティック・アタッチメント・パターンの影響なのかなというのが見えてきたところです。

―――そのデータもどちらかでご発表の予定ですか?

 はい,その予定です。血液型の方に関しても本にちょこっと書いた程度で論文にまとめていないので,今年は真面目に論文書こうかなと思ってるんです。

―――それでは楽しみにしています。
 これは感想なんですが,欠点とかダメ恋愛とかすごく難しい部分があると思うんですよね。つまり,恋愛という全体像の中でその欠点が本人なりにどういう意味を持っているのかによって,全然欠点の意味が変わってきたりとかすることもありますよね?

 もちろんそうだと思います。これも最初は差別がらみで,女子大生が嫌う男はどんな男かっていうような話から入っていったんですよ。もちろん,欠点に限らず恋愛ものは個人差が非常に大きいですから,周りから見てものすごいダメなやつでも,その人の恋人からするとこれだけはすごいからこの人はとても魅力的な人だということも,あるいは逆に,周りからものすごい魅力的な人だと思われていても,あの人はこういうところがあるから私絶対だめだっていうことだってあるわけなんです。なので,恋愛行動はすべて最終的にはケースバイケースになるかと思うんです。ただし,「こういうことやると嫌われるよ」とか,「こういうことはやっぱりまずいよ」,「モテたいと思うんだったらこういうことはやめておいた方がいいと思うよ」っていう,若者たちにとってのおっさんのお節介的なガイドラインにはなるかと思っています。

―――恋愛したいんだったら,こういうことは避けた方がいいよっていうような指標としても使えるのではないかというお話ですね。
 そうしますと,最初におっしゃっていたユニークネスの研究と恋愛の研究もつながっているわけですか?

 ユニークネスも結局は,「なんで人と違っていたいの?人と同じじゃつまらないから」,「じゃ何でつまらないの?人より多くの褒賞が得たいから。目立つことによって目立たない人では得られない何かをゲットしたいから」っていうことなんだろうと考えています。それにアイデンティティや自己確認という要素が加わるのだと思いますが,メインは賞を獲得し自己高揚することであり,自分を認めさせ評価させることなのだと思います。恋愛というのも,他の人は認めてくれなかったとしても,自分のことをものすごく認め評価してくれる相手をゲットするということですよね。そのためにも他者と違う自分をアピールすることが必要になります。恋人ができれば自己評価も高くなります。恋愛も自己高揚効果を持つわけです。そういう流れでは,ユニークネスも恋愛も自己高揚や自己実現と結びつくわけです。

―――自己高揚というとポジティブに響いてくるんですが,たとえばそれがアイデンティティの形成につながったり,そういうことに容易に結びついてくるんですが,一方でユニークネスと言われると,人とは違っていたいという気持ちが根底にあるわけですけど,それが必ずしもポジティブな方にばかり出るのではなくて,ユニークネスの持ちよう,あるいはその表現の仕方によっては社会から逸脱してしまうような,そういう評価を場合によっては下されてしまうこともあり得るわけですよね。なので,ユニークネスという概念はその両方を包含しているのかなとも思うのですが,その辺りについてはいかがでしょうか?

 その辺りから今やっている研究の流れになります。たとえばヤンキーが一般社会の規範からは認められないことをしていても,誰からも認められないことをしているわけではないのですね。ヤンキー仲間では「あいつはケンカ強いぞ」とか「あいつは他のやつにはできないことやるぞ」というような,内集団での承認と賞賛を求めているわけです。誰にも理解されないで自分一人だけで「俺はすごいんだ」と思っているだけということになると,それはユニークネスということにもならないのだと思います。社会全体の評価基準,所属集団の評価基準,そしてきわめて個人的な評価基準の3次元のどの基準で自分を肯定的に評価するかなんですが,個人的評価基準で自己満足するためには集団か社会かどちらかの評価基準の支持が必要になるのです。
   今までの社会心理学だと集団と個人という2つの対比での議論が昔からずっと行われていたわけですが,状況によって所属集団も変わるわけです。そのさまざまな所属集団の中で,今までだと準拠集団というものが(人の行動に)一番影響するということで,集団の中でもアンカーポイントとして準拠集団という概念を社会心理学は発明したんだと思うのです。それでもやっぱり,さまざまな集団に所属してその状況によって人はどんどん変わりますよね。そうした集団の多様性を考えると,個人対集団という2項対立では何も分からないだろうと考えたのです。じゃ,その集団の背後に何があるか,それは社会だろうと。だから,社会と集団と個人,この3次元の評価基準を考えるべきではないか。2005-6年頃からそんな風に考えてデータを取り始めました。個人の規範と集団の規範,社会の規範という3次元の規範をそれぞれどれくらい尊重するか,規範の顕現性の違いというものを測定する,3次元自己制御尺度というものを作って,いろいろ調査や実験をやっています。去年から少しずつ学会で発表しています。今年のパーソナリティ心理学会でも発表する予定です。

―――そうすると,この3次元自己制御尺度にユニークネスが絡んできたりはするのですか?

 先ほど逸脱という話をされましたが,社会的な逸脱であってもそれをポジティブに評価する集団規範がどこかに存在するのです。それがあるから個人の自己評価次元でも,「他のやつら(外集団)が分かってくれなくても,俺はこいつら(内集団)には評価されるんだから,これでいいんだよな」と思えるのです。「俺は自分独自の基準で生きるんだ」なんて言っていても,結局は理解してくれる仲間がいるからやっていけるわけであって,「社会が受け入れてくれなくても,俺のことを受け入れてくれるやつらがいるから俺はこれでいいんだ」ということのなるのです。
 逆に,「今いる集団には本当はいたくない。この集団の中では俺は認められないけれど社会的には俺の方が正しいはずだ」っていうことだってあるわけですよね。ですからその辺りは入れ替え可能です。個人を支えるものとして,社会と集団のどちらをとるか,もちろん,全部が自分を支えてくれれば一番良いことだとは思うのですが,そううまくいかないときはどちらかで自分を支えて生きていくのです。
 先ほどの3次元自己制御尺度,それの集団意識の強い人なんですが,話し合いを実験でやらせると,話し合った集団の合意の方に影響されることが多いんですね。それに対して社会規範の強い人とか個人規範の強い人は,はじめは集団に合意してももう一度態度評定をさせると集団の合意の影響はあまり受けないんですね。集団規範での自己制御が強い場合でも,これは集団規範の使い分けじゃないかなとみられるものも実験をやっていると見えてきているんです。こういう現象は,個人と準拠集団の関係から(人の行動を)考えていた今までの社会心理学のパラダイムだと説明できないと思うんですね。背後に社会規範があるからこそ複数の集団規範があって,社会規範の枠の中で自分を肯定できる集団規範を選んで自分のことを肯定しているのではないか。
 そういうところがまたユニークネスにも絡むだろうと考えています。多くの人からは,「何であの人あんなことやってるの?」とネガティブに評価されても,複数の集団の中に自分のことを評価してくれる集団規範があれば,それをもってきて自分を支える,そんな感じで人間生きているんじゃないかなぁと思います。そういうことを今研究しています。

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